NRADL(長崎大学呼吸器日常生活活動評価表)とは?
NRADL は慢性呼吸器疾患に特異的な ADL 尺度です。各 ADL 10 項目を 動作速度・息切れ・酸素流量 の 3 観点で 0–3 点評価し、「連続歩行距離」0–10 点を加点して合計 100 点で判定します(点が高いほど良好)。総説。
使いどころ(結論)
呼吸器疾患では、一般 ADL 指標(FIM/BI など)の介助量だけでは、症状(呼吸困難・酸素依存)が日常生活に与える影響を十分に反映できない場面があります。NRADL はこの「症状による活動制限」を ADL 文脈で可視化するのが強みです。実務では介助量=FIM/BI、症状影響=NRADLという二軸での併用を基本にし、時系列で前後差を追うと変化が捉えやすくなります。評価全体の位置づけは評価ハブも参照してください。
NRADL と他指標の位置づけ(1 画面比較)
| 指標 | 主眼 | 構成/採点 | 補足 |
|---|---|---|---|
| NRADL | 症状が ADL に与える影響 | 10 項目×(動作速度・息切れ・酸素流量)各 0–3 点+連続歩行距離 0–10 点=100 | 日本での信頼性/反応性報告あり |
| MRADL | 呼吸器 ADL(海外開発の質問紙) | 活動の困難度を自己申告 | 海外由来 |
| LCADL / PFSDQ-m | 更衣・掃除など応用動作 | 呼吸困難や倦怠感等も併記 | 指標ごとに検証状況が異なる |
| FIM / BI | 介助量(一般 ADL) | 症状反映は相対的に弱い | NRADL との併用が合理的 |
評価の手順(5 ステップ)
- 同意と説明:目的・所要時間(数分~10 分)・安全基準を共有。総説
- 準備:既往・増悪徴候、SpO2・酸素流量・自覚呼吸困難の確認。
- 10 項目×3 観点の聴取/観察:患者の普段のやり方で、動作速度/息切れ/酸素流量を各 0–3 点で判定(逐語的な項目文の掲示は避ける)。
- 連続歩行距離の選択:聴取または現場確認(補助具・酸素条件を併記)。
- 合計・前後差の評価:100 点化し、6MWT・mMRC/Borg と併記して効果判定。
3 観点の付け方の目安(0–3 点)
- 動作速度:速やか(3)/ ゆっくりなら可(2)/ 途中休止(1)/ 困難(0)
- 息切れ:軽微(3)/ 中等度(2)/ 強い(1)/ 困難(0)
- 酸素流量:不要(3)/ 低流量(2)/ 中~高流量(1)/ 適応外(0)
※上記は臨床用の要約です。正式文面の逐語掲載は行わず、各施設の標準運用に合わせてください。
項目の趣旨・判定基準・観察ポイント・閾値(臨床用まとめ)
NRADL は「症状(呼吸困難・酸素依存)が ADL に与える影響」を可視化するための呼吸器特異的指標です。下記は臨床運用を助ける要約であり、公式の逐語的項目文は含みません。目的に沿って観察・聴取を標準化し、同一条件で再評価して前後差を読み取ってください。
| カテゴリ例 | 趣旨(何を捉えるか) | 主な観察・聴取ポイント | 評価のコツ |
|---|---|---|---|
| 身の回り(日常セルフケア) | 低~中等度強度の連続動作に対する息切れとペース維持 | 動作の途切れ/休止、動作速度の低下、会話可能性、姿勢変化での呼吸負荷 | 「普段どおりのやり方」を確認。補助具・酸素条件も必ず併記。 |
| 近距離移動・屋内移動 | 歩行や方向転換の連続性と回復時間 | 立位耐性、歩行中の呼吸パターン、到達後の回復時間、息切れの自己申告 | 階段/段差は安全優先。休止回数は速度の代替指標として記録。 |
| 家事・応用動作 | 上肢挙上や持ち上げ動作を含む複合タスクでの呼吸負荷 | 上肢挙上時の呼吸困難、作業の分割・中断、必要酸素流量の変化 | 「まとめて実施」か「小分け」かを確認(頻度/分割は負荷の手がかり)。 |
| 屋外移動・社会参加 | 環境負荷(風・坂・長距離)下での活動耐容能 | 連続歩行距離、坂/向かい風での症状増悪、携帯酸素の取り回し | 距離は実測または再現性ある聴取。条件(補助具・酸素)を固定。 |
0–3 点のアンカー(臨床目安)
| 観点 | 3 点(良好) | 2 点(軽度低下) | 1 点(中等度低下) | 0 点(困難) |
|---|---|---|---|---|
| 動作速度 | 普段ペースで連続遂行(休止なし) | ペースを落とせば遂行・短時間の小休止 | 頻回休止が必要、段取り変更で辛うじて遂行 | ほぼ遂行できない/中断 |
| 息切れ(自覚) | 軽微(会話可能) | 中等度(ペース調整が必要) | 強い(休止なしでは困難) | 動作困難 |
| 酸素流量 | 不要 | 低流量で可(例:1–2 L/min) | 中等量以上が必要(例:3–5 L/min) | 高流量/適応外 |
※「息切れ」は mMRC や Borg(0–10)などの並行記録が有用です(例えば「軽微」≒ mMRC 0–1 / Borg 0–3、「中等度」≒ mMRC 2 / Borg 3–5 などの目安)。正式スコアは NRADL の 0–3 点に従い、併記で解釈を補強してください。
連続歩行距離の運用(0/2/4/8/10 点)
- 代表レンジ例:~50 m(0)/50–200 m(2)/200–500 m(4)/500 m–1 km(8)/1 km 以上(10)。施設方針・評価環境で運用差があるため、院内基準に合わせてください。
- 聴取のみの場合は「普段の連続歩行」「補助具」「酸素条件」を必ず併記。可能なら安全範囲で実測。
- 同条件での再評価(補助具・酸素流量・地形)を徹底し、NRADL 総点の前後差を主要アウトカムに。
判定のコツ(前後差を読み解く)
- 症状→機能→参加のつながりで記述(例:「息切れ軽減」→「家事の連続性↑」→「外出頻度↑」)。
- 6MWT・mMRC/Borgなどと併記し、変化の妥当性を多面的に確認。
- 速度・息切れ・酸素のどこがボトルネックかを明示(介入標的の合意形成)。
安全・中止のヒント
- 急激な呼吸困難増悪、胸痛、めまい、チアノーゼ、著しい SpO2 低下などがあれば評価を中止し、医師へ連絡。
- 酸素デバイス・流量は評価中も記録(歩行距離の実測時は転倒・離脱に注意)。
連続歩行距離の点数(代表レンジ)
| 点数 | 距離の目安 | 備考/根拠 |
|---|---|---|
| 0 | ~50 m | 外来 COPD の運用例(0/2/4/8/10) |
| 2 | 50–200 m | |
| 4 | 200–500 m | |
| 8 | 500 m–1 km | |
| 10 | 1 km 以上 |
ダウンロード
※配布物はいずれも 逐語文非掲載 で、施設標準の項目名を記入してお使いください(院内改変可)。
判定と前後差の読み方(反応性)
NRADL は介入後の変化を捉えやすい反応性が報告されています。ベースライン→退院/外来フォローの前後差を主要アウトカムとし、6MWT・mMRC/Borg・必要なら BODE index 等と併記すると、患者説明やチーム内共有が円滑になります。反応性の検討・関連報告。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
所要時間はどのくらい?
面接式の聴取+歩行距離の確認で数分~10 分程度が目安です(患者説明・安全確認を含む)。総説。
外来でも使える?
外来でも活用されています。歩行距離は聴取か現場確認(コリドー等)で設定し、補助具/酸素条件を併記してください。外来例。
FIM/BI とどちらを使えばよい?
併用が基本です。介助量は FIM/BI、症状影響は NRADL で補完し合います。
歩行距離の閾値は固定?
代表レンジ(0/2/4/8/10)は報告に基づく一例です。施設の評価環境・安全基準に合わせて運用してください。英文報告。
参考文献
- 山口 卓巳. 呼吸器疾患特異的 ADL 評価. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2022;31(1):20–28. 本文.
- 松本 友子ほか. NRADL の反応性の検討. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2008;18(3):227–. PDF.
- Okamoto K, et al. The Nagasaki University Respiratory ADL Questionnaire and BODE index. Jpn J Respir Care Rehabil. 2017;27(1):36–. 本文.
- Moriyama M, et al. Nurse-led self-management program… Research in Nursing & Health. 2013;36(3). DOI:10.1002/rnj.119. PDF.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


