NRADL(呼吸器疾患特異的 ADL 評価)とは?(この記事でわかること)
NRADL( Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire )は、呼吸器疾患(主に COPD など)で起きやすい「 ADL はできているのに、息切れと低酸素で実用性が落ちる」を、速度・息切れ・酸素流量の 3 観点で拾い上げる評価です。BI や FIM だけでは見えにくい“息切れ付きの ADL 低下”を、点数とメモで残せます。
本記事では、NRADL の構造と採点のコツ、現場で詰まりやすいポイント(よくある失敗)を、呼吸リハの流れに沿って整理します。関連として、症状と ADL の見立て全体像は 心不全・呼吸器の「症状 × ADL」評価まとめ で先に押さえると運用が速いです。
評価を「点数で終わらせず」、介入まで一直線につなげる。 臨床で役立つ評価と介入の流れを復習する
NRADL が役立つ場面(結論)
NRADL が強いのは、「自立しているのに疲れる」「動作はできるが途中で止まる」「酸素条件が変わると ADL が崩れる」といった、呼吸器疾患の“生活の詰まり”を可視化できる点です。入院呼吸リハ、外来フォロー、在宅復帰前後など、前後差(反応性)を見たいタイミングでaでは特に使いやすいです。
BI や FIM は“できた / できない”の把握に強い一方、息切れや速度低下が点数に反映されにくく、呼吸器では過大評価になり得ます。NRADL は、速度・息切れ・酸素を同時に点数化するため、介入(運動処方・動作指導・酸素調整)の優先度をつけやすくなります。
NRADL の構造(100 点の意味)
NRADL は、基本 ADL 10 項目を「動作速度」「息切れ」「酸素流量」の 3 観点で各 0〜3 点( 4 段階)評価し、さらに連続歩行距離( 0 / 2 / 4 / 8 / 10 点)を加えて、総得点 100 点で表す尺度です。点数が高いほど“実用的に ADL が回っている”状態を示し、呼吸リハの効果判定にも使われます。
運用上は、「総点」だけでなく、どの観点が落ちているか(速度 / 息切れ / 酸素)を分解して読むのがコツです。たとえば、総点が同じでも「速度が低い」「息切れが強い」「酸素が増える」のどれが原因かで、介入と教育の焦点が変わります。
NRADL と BI / FIM の違い(比較・使い分け)
NRADL は“呼吸器らしさ”を拾う尺度、BI / FIM は“介助量”を拾う尺度、と捉えると整理しやすいです。急性期〜回復期の ADL 全体は BI / FIM、呼吸器の生活の質を詰めるなら NRADL を併用、が現実的です。
| 項目 | NRADL | BI / FIM | 臨床での使い分け |
|---|---|---|---|
| 拾える変化 | 速度・息切れ・酸素条件の変化 | 介助量(できる / できない) | 呼吸器では NRADL で“実用性”を追う |
| 向いている場面 | 呼吸リハ前後、外来 / 在宅の経時 | 病棟 ADL の全体像、介助量共有 | 退院支援は両方あると説明が通る |
| 落とし穴 | 質問の仕方が曖昧だとブレる | 呼吸器では過大評価になり得る | NRADL は“条件(酸素 / 休憩)”を必ず書く |
評価の手順( 5 ステップ)
NRADL は “聴取 + 観察” の設計です。毎回同じ順で回すと、記録が揃い、前後差が読みやすくなります。
- 説明・同意:目的( ADL の困りごとを点数化)と所要時間を共有
- 前提条件の固定:安静時 SpO₂、酸素デバイス / 流量、増悪徴候の有無
- 10 項目の聴取 / 観察:“できるか”ではなく“どの程度の負担でできるか”を確認
- 連続歩行距離:実測が理想、難しければ条件を揃えた聴取で近似
- 合計と分解:総点 +(速度 / 息切れ / 酸素)どこが落ちているかをまとめる
採点のコツ:点数をブレさせない 3 つの質問
NRADL は“質問の仕方”で点数が揺れます。次の 3 つをセットで聞くと、速度・息切れ・酸素を分けて解釈できます。
- 速度:「普段通りの速さでできますか?ゆっくりならできますか?」
- 息切れ:「途中で立ち止まりますか?休むと再開できますか?」
- 酸素:「その動作は同じ流量でできますか?増量や切替は必要ですか?」
ポイントは、患者さんの言葉を“速度 / 息切れ / 酸素”に翻訳して記録することです。「しんどい」は息切れだけでなく、筋疲労・不安・咳・胸部不快感が混ざることがあります。メモ欄に “しんどさの中身” を一言足すと、介入の当たりがつきます。
連続歩行距離( 0 / 2 / 4 / 8 / 10 点)の運用
連続歩行距離は、“生活内の移動”を代表するパートです。実測できるなら最良ですが、難しい場合は「屋内 → 屋外」「買い物」「通院」の具体場面で、止まらずに歩ける距離を条件つきで聴取します(補助具・酸素・坂・階段は別記)。
| 点数 | 距離の目安 | 記録のコツ | 例(書き方) |
|---|---|---|---|
| 0 | 〜 50 m | 屋内移動の限界を明確化 | 病棟内 30 m で停止(酸素 2 L / 分) |
| 2 | 50〜200 m | 屋外が“途中休憩前提”か確認 | 駐車場まで 150 m、 1 回休憩 |
| 4 | 200〜500 m | 買い物動線の可否が焦点 | スーパー 300 m は可能、帰りで息切れ増 |
| 8 | 500 m〜 1 km | ペースと休憩で“生活実装”へ | 700 m をゆっくり、休憩なし |
| 10 | 1 km 以上 | 活動量の維持指導に移る | 1.2 km を一定ペース(酸素同条件) |
現場の詰まりどころ(よくある失敗と対策)
NRADL は“採点の正しさ”以上に、“条件の揃え方”で臨床価値が決まります。次のミスが多いので、テンプレで潰すのがおすすめです。
| よくあるミス | なぜ起きる? | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 「できる」で終わる | BI / FIM の聞き方が残る | 速度・息切れ・酸素の 3 質問を固定 | “ゆっくり / 途中休憩 / 流量変更” を必ず書く |
| 酸素条件が毎回違う | デバイスや流量の記録が抜ける | 評価の冒頭で条件欄を埋めてから開始 | デバイス名、流量、 SpO₂、増量基準 |
| 息切れと筋疲労が混ざる | 「しんどい」に複数要素が含まれる | Borg / mMRC を併記し、症状語を分解 | 呼吸困難、下肢疲労、不安、咳の有無 |
| 前後差が読めない | 同じ場面で評価していない | “いつ / どこ / 条件” をテンプレ化 | 入院何日目、外来何回目、生活場面の一致 |
安全管理(中止の目安と観察)
NRADL は基本的に聴取中心ですが、歩行や模擬動作を絡めるときは安全管理が必須です。施設ルールを優先しつつ、呼吸器では「低酸素」「強い呼吸困難」「胸部症状」を見逃さない運用が重要です。
| 観察 | 例 | 対応 | 記録 |
|---|---|---|---|
| SpO₂ 低下 | 88% 以下が持続、急低下 | 中断、酸素条件再確認、必要時に連絡 | 最低値、回復時間、流量 / デバイス |
| 呼吸困難の増悪 | 会話困難、著明な努力呼吸 | 休憩、姿勢調整、呼吸介助、再開可否判断 | Borg、呼吸数、補助筋、チアノーゼ |
| 胸部症状 | 胸痛、強い動悸、冷汗 | 即中止、状態評価、連絡 | 発症状況、バイタル、既往 |
| めまい・ふらつき | 起立困難、失神前駆 | 即中止、転倒予防、状態評価 | 血圧、起立性の有無、内服 |
結果の読み方:総点より「どこが落ちているか」
NRADL は、総点だけで結論を出すよりも、速度 / 息切れ / 酸素の内訳で「介入のレバー」を決めるのが実践的です。速度が落ちるなら動作効率と筋持久力、息切れが強いならペーシングと呼吸困難対処、酸素が増えるならデバイス教育や活動時の条件整理が優先になります。
また、NRADL は呼吸リハで改善し、 6MWD などの改善と関連した報告があります。退院時や外来フォローでは、同日に 6MWT、 mMRC、 Borg などを併記すると「 ADL の改善が、どの要素の改善に乗っているか」が説明しやすくなります。
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よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. NRADL は「実測」しないとダメですか?
A. 可能なら実測が望ましいですが、臨床では聴取でも運用できます。重要なのは、毎回「補助具・酸素条件・休憩の有無」を揃えて記録し、前後差が読める形にすることです。連続歩行距離は、生活動線(屋内 / 屋外 / 買い物)で具体化するとブレが減ります。
Q2. BI / FIM が高いのに、NRADL が低いのはなぜ?
A. BI / FIM は介助量を中心に評価するため、「息切れでゆっくり」「途中休憩」「酸素が必要」といった“負担つきの自立”が点数に反映されにくいことがあります。NRADL はその部分を拾う設計なので、矛盾ではなく補完関係と考えると整理できます。
Q3. 前後差は何点くらい見ればいいですか?
A. 一律の閾値よりも、「同じ条件で測れたか」と「内訳がどう変わったか(速度 / 息切れ / 酸素)」を優先してください。たとえば、総点が小さくても“酸素条件が安定した”“途中休憩が減った”なら臨床的に大きい変化です。併記する 6MWT や Borg の変化と合わせて解釈すると納得感が出ます。
参考文献
- 山口卓巳, 沖侑大郎, 山本暁生, ほか. 呼吸器疾患特異的 ADL 評価. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2022;31(1):105-109. doi:10.15032/jsrcr.20-28
- 松本友子, 田中貴子, 松木八重, ほか. The Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire:NRADL の反応性の検討. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2008;18(3):227-230. doi:10.15032/jsrcr.18.3_227
- 岡本一紀, 金田瑠美, 北村朋子, ほか. The Nagasaki university Respiratory ADL Questionnaire( NRADL )と BODE index との関係. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌. 2017;27(1):36-40. doi:10.15032/jsrcr.27.1_36
- Spruit MA, Singh SJ, Garvey C, et al. Key concepts and advances in pulmonary rehabilitation. Am J Respir Crit Care Med. 2013;188(8):e13-e64. doi:10.1164/rccm.201309-1634ST
- Holland AE, Cox NS, Houchen-Wolloff L, et al. Defining modern pulmonary rehabilitation: An official American Thoracic Society workshop report. Ann Am Thorac Soc. 2021;18(12):e12-e29. doi:10.1513/AnnalsATS.202102-146ST
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
呼吸器の ADL は「安全の確保 → 条件(酸素)固定 → 速度と息切れの分解 → 点数化 → 再評価」のリズムで回すと、介入の優先度がぶれにくくなります。面談前の棚卸し(面談準備チェック)と、職場を“評価”する視点も一緒に整えるなら、こちらのチェックリストも役立ちます。


