「食べる」という行為は、生命維持に必要な栄養を取り入れる、味を楽しむ、食事の場面を通じてコミュニケーションを楽しむなど、私たちの生活においてとても大きな意味を持ちます。
「食べる」ことは、脳にある摂食中枢と嚥下中枢からの指令で口や喉を動かして、外部から水分や食物を口に取り込み、胃へ送り込むことで、これを「摂食嚥下」の運動といいます。
この運動に支障を来すのが摂食嚥下障害であり、食物を飲み込もうとすると気管へ入ってむせてしまう、食道へ入っていかず喉に残ってしまう、というような症状が特徴的にみられます。原因としては、脳卒中やパーキンソン病などの神経や筋肉の病気、あるいは舌・咽頭・喉頭がんなどがあります。
摂食嚥下障害で生じる問題は、肺炎・窒息・低栄養・脱水など生命の危険に直結する、とても深刻なものばかりです。また、食べることの障害は、医学的リスクだけでなく、食べる楽しみを失うという生活の質(QOL)の観点からも重要な問題になります。
- 摂食嚥下モデルの歴史について
- 摂食運動である先行期と準備期
- 嚥下運動である口腔期、咽頭期、食道期
- 摂食嚥下の随意運動と不随意運動について
- 摂食嚥下のプロセスモデル
摂食嚥下リハビリテーションの目標は、患者さんにとって安全かつ快適な摂食状態をつくり、QOLの向上を図ることになります。食事摂取することによる肺炎や窒息などのリスクに注意しながら、進めていかなければいけません。
リスクを伴う摂食嚥下ですので色々と悩む方もいらっしゃると思います。そんな方のために、こちらの記事を読むことで上記の疑問が解決できるようにしたいと思います!是非、最後までご覧になってください!
【簡単に自己紹介】
埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です
現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!
主な取得資格は以下の通りになります
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
「医療や介護に関わる人の力になるため」「患者様や利用者様に根拠のある適切なリハビリテーションを実施するため」をモットーに働く二児の父です!
最近気になっている資格なのですが、2023年より、日本急性期ケア協会が主催する急性期ケア専門士認定試験が実施されるようです。急性期ケア専門士は急性期ケア・急変対応におけるスペシャリストです。 状態変化の兆候をいち早く察知し、アセスメントから初期対応、 医師への報告など急性期におけるケアの実践を行えることを目指す資格となっています!
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摂食嚥下のメカニズム
健常者の摂食嚥下の動態を説明するために、従来種々の摂食嚥下モデルが提唱されてきました。液体を「飲むこと:嚥下」と固形物を「咀嚼して食べること:摂食」は動態が異なるため、区別して理解する必要があります。
嚥下はもともと「口腔期」「咽頭期」「食道期」の3期に分ける3期モデルが基本となっていました。1813年に、François Magendieは動物の喉頭を切開して観察したところ、嚥下中の声門閉鎖を確認し、喉頭蓋の除去では誤嚥が起こらず、両側反回神経と上喉頭神経を切断してはじめて誤嚥が起こることを実証しました。
その後に嚥下を口腔期、咽頭期、食道期の3つの時期にわけるという説を生理学の基本的論:Précis élémentaire de physiologie(1816)の中で解説しました。
その後、リハビリテーションの観点から「口腔準備期」を追加した4期モデルが提唱されたものの、4期モデルは液体やペーストなどひと口で飲み込める嚥下動態に適用可能なモデルであり、咀嚼を伴う嚥下を説明できるものとしてプロセスモデルが提唱されています。
しかし、摂食嚥下モデルには食べ物を見て形や色を判断し、摂取物を口に運ぶという判断をするまでの段階が必要だと考えられ、その段階を「先行期」としました。先行期を追加したモデルを5期モデルとし、臨床モデルとして現在広く用いられています。
摂食嚥下の5期モデル
先行期
先行期は食べ物を認識して口の中に入れる段階になります。ポイントとなるのは「食べ物を認識する」という点になります。
私たちが食べ物を認識できるのは、無意識に視覚・触覚・嗅覚などを働かせているためになります。たとえば目の前にみかんがあるとします。
多くの方は目の前のみかんをみたとき、過去の経験や形・色・においなどから「これは食べられるものだ」と判断します。
食べられると判断した後は、実際に目の前のみかんを口に運ぶ動作に移ります。先行期に該当するのは、口に入れるという判断をするまでの段階です。
準備期
準備期は食べ物を実際に口に運んで咀嚼する段階になります。咀嚼の主な意義は3つに分類することができます。
食塊形成
咀嚼によって食べものを粉砕し、唾液と混合して嚥下しやすい(飲み込みやすい)形態へ変化させる機能になります。
硬い食べものやバラバラでまとまりのない食べものは嚥下しにくく、誤嚥や窒息の原因となります。咀嚼によってしっかり食塊形成をして飲み込みやすい食形態へ変化させる必要があります。
消化吸収促進作用
咀嚼によって食べものを消化しやすいように粉砕し、さらに唾液や胃液の分泌を促進して食べものの消化吸収を補助する機能になります。
咀嚼が不十分だと消化吸収が上手く行われず、消化不良や小腸閉塞などの原因となるため、咀嚼における消化吸収促進作用も重要な機能になります。
味覚伝達作用
咀嚼を行うことによって舌で味覚を感じやすくする機能になります。このほかにも、歯根膜(歯と骨の間にある膜状の組織のこと)で食感を感じさせることも含まれます。
皆様もご存知の通り、食事の楽しみ方として、味だけでなく「カリカリ」「パリパリ」など食感も非常に重要です。味覚伝達作用はその作用の一端を担っています。
口腔期
口腔期とは「咀嚼した食塊を喉へ送り込む段階」のことで、いわゆる食事における「ごっくん」をする直前の段階となります。この段階では、咀嚼した食塊を舌によってスムーズに咽頭へ送り込むことが必要となってきます。
その際には「舌」がとても重要な機能を担っており、この舌の機能が低下した方ではうまく食塊の送り込みができず、誤嚥や窒息の原因となってしまいます。
口腔期において問題を抱える方に対しては、舌の機能が低下していないか評価することや、舌の筋力である舌圧を鍛えることが重要になります。
咽頭期
咽頭期とは「食塊を飲み込む段階」で、いわゆる「ごっくん」の部分に該当します。
この段階では舌や咽頭の筋力を利用して約0.5秒程度の短い時間の間に一気に食塊を食道へと送り込みます。この短い間に正確に食道へ送り込む機能は非常に精密に制御されており、私たちが自分でコントロールできるのは嚥下反射のごく一部となります。
したがって脳卒中や神経疾患で嚥下反射・嚥下機能が低下した場合は、失われた機能を回復するために嚥下反射・嚥下機能に対するリハビリテーションを行いますが、機能回復が不十分な場合には代償手段を考える必要があります。
その代償手段の代表例が、とろみをつけることになります。とろみをつけることによって食塊の流動性を低下させ、嚥下反射惹起遅延などの機能低下を防ぐことができます。
咽頭期の評価として有用な評価法の1つがRSSTになります。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【反復唾液嚥下テスト(RSST)を徹底解説についての記事はこちらから】
食道期
食道期とは「食塊を食道から胃へ運ぶ段階」であり、「ごっくん」の直後に該当します。いわゆる日常生活で食道期を意識することはないと思いますが、私たちが意識していない時でも不随意的に「蠕動運動」によって食塊を胃へと送り込んでくれています。
プロセスモデル
プロセスモデルは、咀嚼嚥下のプロセスを 4 つのステージに分けて説明しています。
食物の捕食後に、その食物を臼歯部まで運び(stage I :transport)、その後、食物を咀嚼し唾液と混和させ(processing)、咀嚼した食物を順次咽頭へと送ります(stage II:transport)。
咽頭へと送り込まれた食物は、嚥下までそこで蓄積し、最終的に口腔内で咀嚼された食物と一緒になって嚥下されます(swallowing)。
プロセスモデルでは、古典的な 4 期連続モデルと異なり、Processing と口腔からの送り込み(Stage II transport)のステージがオーバーラップしているのが特徴になります。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「摂食嚥下の5期モデル」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
摂食嚥下リハビリテーションでは、患者さんが安全かつ楽しく生活できるよう、栄養摂取の方法を確立することを目指します。
摂食嚥下の5期モデルの各段階のメカニズムを正しく理解し、効果的なリハビリテーションおよび安全・適切なケアができるように努めていきましょう!
摂食嚥下のリスク管理として、窒息した際の対応方法を理解しておくことも当然必要になります。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【誤嚥窒息の病態と対処方法についての記事はこちらから】
参考文献
- 高田明子.嚥下モデルの進歩:プロセスモデル.信州医誌.52(5),2004,p401-402.
- 松尾浩一郎.プロセスモデルで考える咀嚼嚥下リハビリテーション.日本顎咬合学会誌.咬み合わせの科学,第35巻,第3号,2015,p243-248.