臨床参加型実習(クリニカルクラークシップ: CCS )の回し方:受け入れ側の運用
臨床参加型実習( Clinical Clerkship / CCS )は、学生が「見学中心」から一歩進み、指導者の監督下で患者ケアに段階的に参加する実習形態です。受け入れ側の勝ち筋は、任せる範囲を段階化し、安全・同意・報告経路を先に型化して、日々の負担を減らすことにあります。
本稿は、実習受け入れ側の PT/OT/ST(実習指導者、教育担当、リーダー)向けに、1 日の標準フロー、任せられる業務( EPA )の切り方、ミニ CEX / OMP による短時間フィードバック、記録と評価(簡易ルーブリック)まで、運用のコツをまとめます。関連:臨床教育ハブ( CCS/ EPA/ WBA )
用語の整理:臨床参加型と「診療参加型」
医療系教育では「診療参加型臨床実習」という言い方が一般的ですが、リハ領域でも運用の要点は同じです。学生をチームの一員として扱い、権限と責任を段階づけることが核になります。
名称より重要なのは、①許可された行為の範囲、②監督レベル(直接・間接)、③安全の閾値(中止基準)、④記録と報告経路を明文化し、「誰が担当しても同じ運用」にすることです。実習の「時間」や「実施場所」のルールは、指定規則・ガイドライン・大学/施設規程を前提に、現場は院内版の運用メモへ落として共有します。
1 日の標準フロー(病棟/外来の型)
日々の運用は、申し送り → 同意確認 → 安全チェック → 評価・治療参加 → 記録と振り返りの 5 ステップに分けると回しやすいです。学生には各ステップでの行動目標(観察→部分遂行→全体遂行)を提示し、到達度は短時間で回収できる道具で確認します。
| ステップ | 学生の行動目標 | 指導者の要点 | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| ① 申し送り | 患者背景とリスクを要約( 30〜60 秒) | 安全フラグ(転倒・ OH ・疼痛・誤嚥等)を先に提示 | 患者別「注意点」欄を固定 |
| ② 同意確認 | 目的・範囲・拒否権を再確認 | 同意の取り方を施設手順に統一 | 同意取得の事実と範囲 |
| ③ 安全チェック | バイタル・禁忌・中止基準を口頭報告 | 閾値は「数字+対応」でセット化 | 中止基準/報告先 |
| ④ 参加(評価・治療) | 観察 → 一部実施 → 監督下で実施 | 危険場面は「先回り」して声かけ | 実施条件と反応(事実) |
| ⑤ 記録と振り返り | 学び/次回やること/質問を 3 点で提出 | 次の課題は 1 つに絞る | デイリーログ( 3 点固定) |
任せられる業務( EPA )の例
EPA( Entrustable Professional Activities )は「任せられる業務」を単位化し、監督レベルを明確にする考え方です。実習では、行為そのものよりもリスクの見立てと中止・報告ができるかを優先して設計します。
まずは「観察 → 共同 → 監督下単独」の 3 段階で統一し、初日に共有します。日替わりの裁量にならないよう、許可範囲と監督レベルを記録に残す運用が有効です。
| 職種 | EPA 例 | 監督の要点 | 安全フラグ | 記録の型 |
|---|---|---|---|---|
| PT | ベッドサイド安全確認、起居・立位の介助(監督下)、歩行の見守り | バイタル閾値、 OH 、転倒リスク、疼痛増悪を先に確認 | ふらつき/顔面蒼白/胸部症状/疼痛の急増 | SOAP( S/O は事実、 A/P は指導者が最終確認) |
| OT | 更衣・食事の準備、環境設定、作業活動の段取り | プライバシー配慮、危険物回避、疲労の見立て | 手指の外傷/誤薬リスク/過負荷 | 目的→手順→安全→結果の順で定型化 |
| ST | 嚥下前の姿勢調整、声かけ、とろみ確認、間接訓練の一部 | 誤嚥リスクの即時共有、食形態の遵守 | 湿性嗄声/むせ/ SpO2 低下/痰増加 | 実施条件(姿勢・食形態)と反応を固定 |
患者安全・倫理(同意と守秘)
学生が関与する前に、患者・家族へ目的・範囲・拒否権を説明し、同意の取得(または施設の手順に沿った記録)を行います。学生が関与できない場面(創部観察、個人情報の写し出し、録音・撮影など)は最初に明示し、例外対応が必要なら「誰の許可で、どこに保存し、いつ廃棄するか」まで決めます。
守秘は「持ち出さない・写さない・口外しない」の 3 原則を徹底します。感染対策は標準予防策+施設ルールを、オリエンで短い理解確認(口頭でも可)にすると定着しやすいです。
| 場面 | 必須確認 | 想定リスク | 記録 |
|---|---|---|---|
| 同意 | 目的・範囲・拒否権、学生の立場 | 同意なし介入、説明不足 | 同意取得の事実(署名/電子承認等) |
| 安全 | バイタル、 OH 、転倒、禁忌 | 転倒、急変、疼痛増悪 | 閾値と中止基準、報告先 |
| 守秘 | 情報の持ち出し禁止、メモの扱い | SNS 投稿、写真・録音 | オリエン実施日と同意範囲 |
| 感染 | 手指衛生、 PPE 、曝露時対応 | 曝露、交差感染 | 指導内容と理解確認 |
指導とフィードバック(ミニ CEX / OMP )
短時間で回せる「型」を使うと、忙しい日でも指導が途切れません。ミニ CEX は、観察 → 評価 → 即時フィードバックを 5〜10 分で完結させるフォーマットで、学生の行動を直接見て、その場で次の 1 手を決めやすいのが利点です。
One-minute Preceptor( OMP / 5 つのマイクロスキル)は「コミットを引き出す → 根拠を尋ねる → 一般化 → よかった点 → 改善点」で 1 セットです。改善点は「行動」で具体化し、次の課題は 1 つに絞ると、学生の混乱と指導者の負荷が同時に下がります。
記録と情報共有( SOAP /カンファ)
学生の記載は「 S / O の事実」と「 A / P の思考」を分けて添削します。安全イベント( OH 、疼痛増悪、誤嚥疑い等)は、時系列 → 対処 → 再発予防を短く残すとカンファが回ります。
学生の記録は「仮」で、最終責任は指導者が持つ前提を明確にします。日報は「学び/次回やること/質問」の 3 点固定が実務的で、質問は翌日の最初に回収する運用にすると、都度の呼び止めが減り、現場のリズムを崩しにくくなります。
評価と到達目標(簡易ルーブリック)
評価は「できた/できない」だけでなく、監督レベルをセットにすると実務に直結します。例として 3 段階(要直接監督/監督下で可/条件付きで単独可)で統一すると、指導者間のズレが減ります。
到達目標は「安全」と「報告」が軸です。判断が難しい場面ほど、学生の「言語化(根拠)」を確認し、次の 1 手へつなげます。
| 項目 | 基準(合格) | 観察ポイント | 次の課題例 |
|---|---|---|---|
| 安全確認 | OH ・疼痛・転倒リスクを事前に口頭報告できる | 閾値理解、危険行動の予測 | 中止基準の言語化 → 再評価計画 |
| 説明・同意 | 理解度に応じた説明と同意の再確認ができる | 専門用語回避、要約・復唱 | 拒否時の代替案提示(観察へ切替) |
| 記録 | SOAP で事実と考察を分けて記載できる | 客観データ → 判断 → 次回計画 | 評価所見を 1 行で要約する訓練 |
運用ツール(院内向けに用意しておくと便利)
共有の形式は施設のルールを最優先にしつつ、最低限そろえると回しやすいのは次の 4 点です。目的は「誰が見ても同じ運用」なので、手順・閾値・報告先を固定し、個人の経験に依存しない形にします。
- 受け入れ前オリエンチェックリスト(守秘・感染・同意・禁止事項・報告ルート)
- 学生用デイリーログ(学び/次回やること/質問の 3 点固定)
- ミニ CEX 記録票(観察項目、強み、改善点、次回課題 1 つ)
- 説明・同意のスクリプト(目的・範囲・拒否権・中止の扱い)
現場の詰まりどころ(よく詰まる順)
臨床参加型実習が回らない原因は、能力よりも「運用の曖昧さ」にあることが多いです。よく詰まるポイントを先に潰すと、指導負荷が下がり、学生も動きやすくなります。
| 詰まりどころ | 起きがちなこと | 対策(型) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 任せ方が曖昧 | 日によって許可範囲が変わる/学生が萎縮 | EPA を 3 段階で明文化し、初日に共有 | 許可範囲と監督レベルを残す |
| 安全の閾値が統一されない | 中止基準が人により違う | バイタル閾値・ OH ・転倒をチェックリスト化 | 中止理由と報告先を固定 |
| フィードバックが長い | 指導者が疲弊/学生は要点を失う | ミニ CEX / OMP で「次の課題 1 つ」 | 強み 1 つ+改善 1 つ+次回 1 つ |
| 記録が破綻する | 主観と事実が混ざる/事故時に追えない | SOAP の役割分担(学生=事実中心) | 時系列 → 対処 → 再発予防 |
| 同意・守秘が形骸化 | 「いつもの」で流れる | 禁止事項を最初に提示し、例外は文書化 | 同意の事実と範囲を明記 |
よくある質問( FAQ )
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見学実習や OSCE との違いは?
見学実習は観察が中心、 OSCE は技能の評価が中心です。臨床参加型実習( CCS )は、患者安全を担保したうえで、学生が段階的にケアへ参加し、任せられる範囲を EPA などで広げていく点が特徴です。
学生にどこまで任せてよい?
施設ルールと患者安全が最優先です。「観察 → 共同 → 監督下単独」の順に進め、任せる前提条件(バイタル安定、転倒リスク、禁忌の有無など)を明文化します。高リスク手技や判断が難しい場面は、常に直接監督下で行います。
同意が得られない(撤回された)場合は?
患者の意思を最優先し、学生関与は中止して観察症例へ切り替えます。記録は「同意が得られなかった/撤回された」事実と、代替学習へ切り替えたことを簡潔に残します。
写真・録音・個人メモの取り扱いは?
原則は禁止にしておくのが安全です。施設手順で例外を認める場合のみ、目的・保存先・廃棄時期・閲覧者を明記し、必要な同意を取得します。メモは個人情報が残らない形(匿名化、持ち出し禁止)を徹底します。
「実習時間」や「実習場所」のルールはどこで確認する?
指定規則( e-Gov 法令検索)や、厚生労働省通知・各職能団体の手引き、大学と施設の規程が一次情報です。現場では、ルールの解釈を個人に任せず、教育担当が「院内版の運用メモ」に落として共有すると混乱が減ります。
おわりに
臨床参加型実習は「安全の確保 → 任せる範囲の段階づけ( EPA )→短時間フィードバック → 記録と再評価」を一定のリズムで回せると、学生の成長が加速し、指導者の負担も下がります。受け入れを機に、面談準備チェックと職場評価シートで情報を整理したい場合は、マイナビコメディカルのチェックツールも活用してみてください。
参考文献
- 厚生労働省.診療参加型臨床実習実施ガイドライン(平成 28 年度改訂版).(厚生労働省)
- 厚生労働省.理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改正概要(臨床実習施設の要件など).(厚生労働省)
- e-Gov 法令検索.理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則.本文
- 日本理学療法士協会.臨床実習教育の手引き(第 6 版).2020.(日本理学療法士協会)
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- Norcini J, Burch V. Workplace-based assessment as an educational tool: AMEE Guide No. 31. Med Teach. 2007;29(9):855-871. doi: 10.1080/01421590701775453 / PubMed: 18158655
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


