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理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪
ノルディック・ウォーキングとは

ノルディックウォーキング(NW)は、2 本の専用ポールを用い、上肢の推進力と体幹のローテーションを歩行に統合する全身有酸素運動です。
日本では医療・介護分野に適した「メディカルNW(Medical Nordic Walking)」が普及し、ポールを体幹より前方に設置して安定性を高めつつ歩幅と姿勢を整えます。
通常歩行より酸素摂取量・消費エネルギーが増え、持久性の改善が期待できます。転倒リスクや関節痛が不安な高齢者でも、支持面を拡大して安全に負荷を調整できることが臨床での利点です。
高齢者リハビリで期待できる効果(エビデンス)
高齢者を対象にしたメタ解析では、NW が最大酸素摂取(VO₂max)を改善し、体脂肪・BMI・腹囲・LDL・中性脂肪を低下、収縮期血圧を約 3 mmHg 低下させ、65 歳超では拡張期血圧の低下効果が相対的に大きいことが示されています。
機能体力の観点では、従来歩行やセラバンド筋トレと比べても上肢筋力・心肺持久力・柔軟性を“同時に”底上げできる、汎用性の高い方式です。NW は疾患をまたいだ QOL 改善にも寄与し、一次・二次予防として推奨可能です。
ノルディックウォーキング 種類
ノルディックウォーキングは運動初心者でも安全に実施することができる全身運動であり、なおかつ高い運動効果を期待することができます。
運動強度を歩き方によって調整できるところもノルディックウォーキングの魅力的な部分の 1 つであり、運動初心者が無理せずに自分の身体機能に合わせた運動強度で全身運動を行うことができます。
ノルディックウォーキングの歩き方は運動強度によって以下の 2 種類に分類することができます。
- ノルディックウォーキング:運動強度 高
- ポールウォーキング:運動強度 低
ノルディックウォーキングとポールウォーキングの違い
ノルディックウォーキングとポールウォーキングの違いはなにか、どちらが運動に適しているのか、気になる方もいると思います。
結論からいえば、ノルディックウォーキングとポールウォーキングのどちらもノルディックポールを両手に持って歩くという点では同じであり、どちらも高い運動効果をもたらすため、健康増進目的の運動として行う分にはどちらも相応しいといえます。
ノルディックウォーキングとポールウォーキングの違いとしては、歩幅、ノルディックポールを突く位置、ノルディックポールの持ち方、持ち手の形状、地面に着く先端部分の形状、といったように細かくいえば様々な要素があげられます。
理学療法士の視点からみて何が最も重要な違いなのかというと、ノルディックウォーキングとポールウォーキングは運動強度が異なり、ノルディックウォーキングの方が運動強度が高いというところになります。
ノルディックウォーキング 歩き方
- 自身の後方にポールをつく歩き方
- ポールについたストラップで手とポールを固定
- ポールを地面に対して斜めに突く
- 突いたポールにより推進力を得る
- 歩幅は普段より半歩以上広くなる
ポールウォーキング 歩き方
- 自身の前方にポールをつく歩き方
- 踏み出した足の横付近にポールを突く
- 地面に対して垂直にポールを突く
- ポールは軽く握る程度
- 膝や腰への負担を軽減できる
- 腕は前後に自然にスイング
- 歩幅は普段より半歩広くなる
ノルディックウォーキングの歩き方については、一般社団法人全日本ノルディック・ウォーク連盟のホームページでも説明されておりますので、興味がある方はご確認ください。
適応・禁忌と安全管理
適応はフレイル・心血管リスク保有者・運動習慣のない高齢者・転倒不安や耐久性低下がある方など。禁忌・慎重投与は急性心不全・不安定狭心症・重度高血圧の未治療、急性炎症・発熱、重度の起立性低血圧や転倒多発、医師からの運動制限がある場合などです。
開始時はメディカルチェックを行い、RPE(ボルグ 11 ~ 13)か会話可能レベルの“中等度”から開始します。多要素運動(有酸素+筋力+バランス)を週 3 日以上組み合わせると、ADL・歩行自立の維持に有利です。
実施手順:ポール長・基本フォーム

NWの強みは、フォームとポール操作で安全に負荷を微調整できる点です。まずは平坦路での直線歩行から開始し、痛みや息切れを観察しながら 10 ~ 15 分 × 2 セットを目安に行います。
姿勢は胸郭を開いて軽度の前傾、股関節伸展と体幹回旋を同調させ、かかと接地→ローリング→つま先離地を意識します。ストラップに手を通し、後方押し出し時は “握る→離す” で推進力を引き出します。下り坂・段差・雨天はポール先端の設置角度と荷重を控え、滑走を避けるよう指導します。
ポール長の目安
一般的な推奨は「身長 × 0.68(±個人差)」となります。肘がおよそ 90° となる長さから始め、初心者はやや短め、慣れたら段階的に延長します。可動域・上肢長・歩行速度・路面状況でも最適値は変わるため、試歩で微調整してください。
基本フォームの要点

- 目線は水平、胸郭を開く
- 一歩大きく、かかと接地を明確に
- 対側上肢でポールを後方へ押し出す(ストラップリリース)
- 体幹回旋と股関節伸展を同調
- 歩幅・テンポは会話可能な範囲で維持
介入デザイン(FITT):頻度・時間・強度設定
頻度は週 3 ~ 5 日、1 回 20 − 40 分から開始し、合計 “3 メッツ以上を週 15 メッツ・時以上” を満たすことを目標にします。
体力十分な高齢者は週 23 メッツ・時以上実施すると良いとされています。有酸素運動に加え、下肢筋力とバランス課題を同日または交互日に配置すると、転倒予防と歩行耐久性の双方を狙えます。
強度は RPE 11 ~ 13、SpO₂ の値や自覚症状で過負荷を回避します。12 週継続で体力・代謝指標の改善が望めます。
病態別の活用ポイント
ノルディックウォーキング(NW)は疾患横断で有効ですが、病態により目的・リスク・処方は微調整が必要です。本章ではパーキンソン病、末梢動脈疾患(間欠性跛行)、変形性膝関節症/腰痛を例に、FITT設定と安全管理、症状モニタリングの要点を整理します。
パーキンソン病
NW は歩行能力・バランス・運動症状・QOL を改善するエビデンスが集積されています。凍結歩行への行進リズム付与、上肢スイングの促通、姿勢矯正に有利です。
ホーエンヤールの分類 1 ~ 3 で導入しやすく、外歩行の動機づけにも役立ちます。転倒歴・すくみが強い場合は、緩い勾配と広い路面を選定し、介助下から開始します。
末梢動脈疾患(間欠性跛行)
監督下歩行は跛行肢の疼痛閾値改善と歩行距離延長に有効で、NW を組み込むと上肢推進力で実歩行距離を確保しやすくなります。最近の RCT でも NW 群で歩行能力の改善が報告されています。専門職が症状監視(疼痛スケール・皮膚色・回復時間)を行いながら間欠的歩行を処方します。
変形性膝関節症・腰痛への配慮
NW は “負荷分散” により症状の自己効力感を高めやすい一方、関節内力が一律に減るわけではありません。痛み増悪時は歩幅・推進力・下り坂を控え、平坦路の短時間セッションに分割し、筋力・可動域訓練と併用します。
ノルディック・ウォークのメリット
ノルディック・ポールを活用した歩行練習はリハビリテーションの観点から考えてみても、足腰への負担を減らし、上半身の運動を促すことで、効率的に全身の運動効果を高める優れたアイテムといえます。
ノルディック・ウォーキングの優れたポイントを以下に記載していきます。
全身の筋肉を使う全身運動
ノルディック・ウォーキングは、ノルディック・ポールを使うことで全身の筋肉をたくさん刺激することができます。身体全体の 90 %の筋肉を使うとされており、普通のウォーキングよりエネルギー消費量が約 20 %増加します。
そのため、体力や持久力の強化、減量などに効果的に働きます。下肢だけではなく上半身の運動も動員されるため、肩や首の運動不足の解消や肩甲骨の可動域の改善にも有効となります。
支持基底面の拡大による重心の安定
歩行には新しい支持基底面を探し、新しい支持基底面で重心の移動を円滑に行う仕組みが存在します。
2 足歩行の私たちは 2 本の足が支持基底面を作ります。足と足の間隔が狭くなると支持基底面は狭くなるため重心は不安定に、足と足の間隔が広くなると支持基底面は広くなるため重心は安定します。
足と足の間隔を広げる以外の方法で支持基底面を拡大させるためには、杖や歩行器などの歩行補助具を活用することが 1 つの方法になります。
片手で杖をつくだけでも、2 本の足+杖で 3 点支持となり、重心は安定します。更にノルディック・ポールの場合、2 本杖+ 2 本の足の 4 点支持となり、更に支持基底面が拡大(重心が安定)します。
前傾姿勢を抑制し歩行効率が向上する
前傾姿勢で前方に特異に支持基底面を拡大させ、歩く歩行補助具には四脚歩行器や歩行車など様々なものがあります。
ノルディック・ポールは姿勢を立する歩行補助具であるため、歩行器や歩行車とは異なる効果を期待することができます。
ノルディック・ポールを活用することで、脊柱を正中に保ち、歩行姿勢を改善させることができます。歩行器、歩行車、ノルディック・ポールの歩行を比較したときに、ノルディック・ポールを活用した時の方が体幹の回旋が増加し、歩幅が拡大、歩行効率が向上すると考えられます。
関節にかかる負荷を軽減する
高齢者や関節疾患を有する場合、歩行中に体幹が左右にブレることや股関節周囲筋が弱く踏ん張りが効かないことが予想されます。
ノルディック・ポールを用いて歩行を行うことにより、左右への体幹動揺が抑制され、歩行動作の改善を図ることができます。
結果として脊椎や腰関節、膝関節、足関節に対する負荷を軽減することができ、安全な歩行練習を行うことができます。
運動強度の調節ができる
高齢者や基礎疾患を複数有する方のリハビリテーションでは、日によって体調に変動があるため、その日のコンディションを考慮しつつ運動を行う必要があります。
ノルディック・ウォーキングの良いところは、ポールの使い方や歩行速度などを調節することにより運動強度を簡単に調節することができます。その日の体調に合わせて運動強度を調整することも重要なリスク管理になります。
評価指標とアウトカムの取り方
- 有酸素・耐久性
- 6分間歩行(6MWT)、10m歩行速度(快適・最大)
- 移動能力と転倒リスク
- TUG、SPPB
- バランス
- 片脚立位、Functional Reach
- 症状
- RPE、NRS/VAS、下肢痛・息切れ
- 活動
- 歩数・外出頻度・LIFE-Space
まとめ
ノルディックウォーキングは、高齢者の “安全な負荷調整” と “多要素の同時改善” を両立する歩行トレーニングです。
メタ解析では VO₂max・脂質・血圧・体組成などの心代謝指標を幅広く改善し、疾患横断で QOL の向上も示唆されています。
日本の医療現場ではメディカル NW の技術を取り入れ、MHLW ガイドが勧める多要素運動の中核として、評価指標と組み合わせて計画的に処方しましょう。
参考文献
- 本宮丈嗣,山本澄子.ノルディック・ウォーキングが高齢者の歩行に与える影響.理学療法学.第44巻,第1号,2017年,p11-18.
- 仙石直子,小泉大亮,竹島伸生.機能的体力を指標とした高齢者に対するノルディックウォーキングの介入効果について.体育学研究 .57,2012,p449-454.