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この記事は「咳テスト」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
咳テストは不顕性誤嚥のスクリーニングのために開発された検査法になります。現在までの研究で高い精度を示し、不顕性誤嚥のスクリーニングに有用であることが示されています。咳テストを用いることで、咳を誤嚥の徴候(指標)として使えるか否かを判断することが目的となります。
不顕性誤嚥を精査するには VE や VF を実施することが望まれますが、環境や職種によっては実施が困難な場合もあるかと思います。そのような場合に、咳テストはスクリーニングテストとして有効となります。
こちらの記事では咳テストについて、より詳細に解説していきたいと思います!
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
摂食嚥下障害 スクリーニング
摂食嚥下障害の評価は、「スクリーニング」と「精査」に分類されます。
【スクリーニング】
- 病歴、問診
- 咳テスト
- 水飲みテスト
- 反復唾液嚥下テスト(RSST)
- 質問紙
【精査】
- 血液検査
- 胸部 X 線(誤嚥性肺炎の評価)
- 頭部 MRI
- 頭部 CT(嚥下障害の原因)
- 嚥下造影検査(VF)
- 嚥下内視鏡検査(VE)
スクリーニング、精査に共通していえることは、評価の目的を明確にすることが重要になります。
咳テストの目的は不顕性誤嚥の有無を評価することになります。咳テストを実施することで誤嚥性肺炎の予防的ケアや早期発見に役立てることができます。
咳テスト、不顕性誤嚥について詳しく解説していきます。
咳テストとは
咳テストは、霧化した咳誘発物質を吸入させて咳反射の有無を評価します。咳反射の結果によって、不顕性誤嚥の有無がわかるテストとなっています。
前述したように、咳テスト以外にも摂食嚥下障害を抽出するスクリーニングはいくつかありますが、咳テスト以外のスクリーニングのみでは不顕性誤嚥があったとしても、それを見逃してしまう可能性が懸念されていました。
実際に臨床報告でも、ベッドサイドでは 40 % の不顕性誤嚥が見落とされているという報告があります。
不顕性誤嚥は誤嚥性肺炎に繋がる危険な症状になるため、少しでも不顕性誤嚥の発症率を下げることが、これからの摂食嚥下リハビリテーションには必要となります。
これらの問題点を解決するために開発されたのが咳テストとなります。次項にて不顕性誤嚥について解説します。
不顕性誤嚥とは
「不顕性誤嚥」とはどのような症状なのでしょうか?「不顕性誤嚥」を説明する前に、まずは「誤嚥」について考えていきます。
「誤嚥」とは、食物や唾液などが嚥下時などに誤って声門を越えて気道に侵入することを指します。
健常な人の場合、簡単に「誤嚥」はしないようになっています。その理由を以下に説明していきます。
「誤嚥」の一歩手前の状態として「喉頭侵入」という言葉があります。「喉頭侵入」とは、食物や唾液などが喉頭内(声門上)に侵入した状態をいいます。
通常、健常者では「喉頭侵入」が起こると生体の防御反応により、気道内に侵入した物を除去しようと「咳」や「むせ」が生じます。その結果、食物や唾液が喀出されます。
当然、誤嚥しかけた時にと「咳」や「むせ」が防御反応として生じます。このように健常の場合では、誤嚥しそうになったときには「咳」や「むせ」で誤嚥を回避するようになっています。
次に「不顕性誤嚥」ですが、別名で「むせない誤嚥」や「silent aspiration(静かな誤嚥)」とも呼ばれています。
名称通りになりますが、「不顕性誤嚥」とは誤嚥をしても「咳」や「むせ」が生じない誤嚥のことをいいます。
食事の時に食物が「喉頭侵入」しても、誤嚥したとしても「咳」や「むせ」が生じないため、やがて肺や気管内では炎症が発生します。
また「不顕性誤嚥」が発生するのは食事だけではなく、特に就寝中に発生しやすいと報告されています。寝ている間に口腔内の唾液が無意識に気管内に流れ込むことで知らぬ間に誤嚥してしまうのが「不顕性誤嚥」になります。
「不顕性誤嚥」は健常者であっても起こっているといわれています。 健常者の場合には、抵抗力や免疫力があり口腔内も清潔に保たれているため、誤嚥性肺炎の発症リスクは高くありません。
しかし、高齢者や要介護者で抵抗力や免疫力が低 下している場合には、不顕性誤嚥が誤嚥性肺炎の引き金となりかねません。
また、抵抗力や免疫力だけの問題だけではなく、高齢者や要介護者では多剤服用の可能性が高くなります。
内服薬の影響として、 意識レベルや日中の活動性低下にかかわる睡眠薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬などを服用している場合であったり、口腔乾燥を引き起こす抗コリン薬などを服用している場合には、より一層誤嚥性肺炎のリスクが高くなります。
以上のように「不顕性誤嚥」は誤嚥性肺炎の引き金となる恐ろしい病態になります。この「不顕性誤嚥」の有無や症状を評価することができるテストが「咳テスト」になります。
咳テスト 評価方法
咳テストは、霧化した咳誘発物質を吸入させて咳反射の有無を評価する検査になります。
超音波式もしくはメッシュ式ネブライザーにクエン酸を入れて、ネブライザーから産生される霧を口から吸入します。
吸入時間は、最低 30 秒間行います。評価者は 30 秒間の吸入中に発生する咳やむせの回数をカウントします。
咳テスト カットオフ値
2008 年に発表した論文では、1 分間で 5 回以上咳反射が生じた場合を陰性とし、4 回以下であれば陽性(不顕性誤嚥の疑い)とされていました。
その後、2012 年に Sato らがカットオフ値を 30 秒間で 1 回の咳が出ると陰性(正常)、30 秒間で 1 回も咳が出なかったら陽性(不顕性誤嚥の疑い)とした論文を発表し、高い精度を示しています。そのため、現在は 2012 年の Sato らの基準が一般的に用いられています。
また、ネブライザーは 2008 年で発表した論文では超音波式のものを使用していましたが、2014 年には携帯できるメッシュ式のネブライザーでの有用性を示し、より簡便に場所を選ばずに実施できるようになっております。
その他の摂食嚥下スクリーニング評価
咳テストは嚥下反射を評価することができないため、嚥下反射を評価するスクリーニングテストと併用することで信頼性が高まります。
例えば、改訂水飲みテスト(Modified water swallowing test :MWST)を併用するとします。
MWST で嚥下反射をアセスメントし、咳テストで防御反射をアセスメントすることで、MWST で正常と判断され、ふるい落とされる可能性のある不顕性誤嚥を見つけ出すことができます。つまり、咳を指標として訓練を続けて良いか否かの判断をすることができます。
このように、嚥下反射を評価するスクリーニングテストと咳反射を評価するスクリーニングテストを組み合わせることで、より精度の高い不顕性誤嚥のスクリーニングをすることができます。
水飲みテストについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【水飲みテストの種類と評価結果についての記事はこちらから】
咳反射に影響を及ぼす因子
咳テストはスクリーニングテストであるため偽陽性と偽陰性が生じます。偽陽性では本当は不顕性誤嚥を呈しませんが、咳テストで咳が出ず不顕性誤嚥と判断されます。偽陰性は不顕性誤嚥であるのに咳テストで咳が出て正常と判断されます。
咳反射に影響を及ぼす因子には、以下の要素を挙げることができます。
- 喫煙(喫煙者では咳閾値が上がる)
- 性別(男性より女性のほうが咳閾値が低い)
- 睡眠(就寝時は咳反射が減弱する)
- 加齢(70 歳までは有意に低下しないが、認知機能や活動性の低下により咳反射が低下する)
- 脳血管疾患、パーキンソン病、意識障害、統合失調症(ドパミンの減少により咳反射が低下する)
このように咳反射に影響を及ぼす因子には多くのものがあるため、患者の中には誤嚥はしていなくても咳閾値が上昇している患者がいることが予測されます。偽陽性群については咳閾値がなんらかの理由で上昇していることが一つ考えられます。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「咳テスト」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで嚥下障害についての理解が深まり、臨床におけるリハビリテーション診療の一助へとなれば幸いです。
咳テスト以外にもスクリーニング検査は様々なものがあります。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【嚥下障害におけるスクリーニングテストについての記事はこちらから】
参考文献
- 若杉葉子,戸原玄,中根綾子,後藤志乃,大内ゆかり,三尊伸哉,竹内周平,高島真穂,都島千明,千葉由美,植松宏.不顕性誤嚥のスクリーニング検査における咳テストの有用性に関する検討.日摂食嚥下リハ会誌.2008,12(2),p109-117.
- 水野幸太郎,川野理,深井一郎.摂食・嚥下サポートチームによる周術期嚥下機能評価の意義─不顕性誤嚥性肺炎の予防策─.日呼外会誌 .2011年,25巻,6号,p600-603.
- 三鬼逹人.誤嚥と誤嚥性肺炎の要因 – 誤嚥のタイプと不顕性誤嚥から誤嚥性肺炎の要因を考える.ブレインナーシング.34(2),p178-179,2018.