咳テストのやり方と中止基準|不顕性誤嚥スクリーニング

栄養・嚥下
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咳テスト(不顕性誤嚥スクリーニング)【手順・中止基準・配布物】

咳テスト(咳反射テスト)は、外からの刺激で咳反射が惹起されるか、その強さや質をみることで 不顕性誤嚥リスク を早期に拾い上げるベッドサイドスクリーニングです。水や食物を用いず短時間で行えるため、 ST に限らず PT・OT・看護職も多職種で共有しやすい評価手段です。

本ページでは「咳テストとは?」という基本から、目的、やり方(準備・手順・観察ポイント)、禁忌と中止基準、結果から VE/VFSS など精査・介入につなぐ考え方までを、院内で使える配布物とともに 1 ページに整理します。

嚥下評価フロー( VE/VFSS 連携含む)を見る

実施手順&中止基準( A4 ) 
記録シート( A4 ) 
患者さま案内( A4 )

咳テストとは?目的と臨床での位置づけ

咳テストとは、咽頭や気道への刺激に対して咳反射が惹起されるか、その 有無・タイミング(即時/遅延)・強さ・連発性・声質の変化 などを観察する検査です。自覚的な「むせ」が少ないのに肺炎を繰り返すケースなどで、気道防御能の低下=不顕性誤嚥を疑う入口として用いられます。

嚥下造影検査( VE/VFSS )や RSST・改訂水飲みテストなど、嚥下動作そのものを評価する検査と組み合わせることで、「どこで」「どの程度」誤嚥リスクが高いのか を多面的に把握できます。ベッドサイドで簡便に実施できるため、急性期〜維持期の病棟・施設で ST/PT/OT/看護職が共通言語として活用しやすいスクリーニングです。

咳テストのやり方(準備・手順・観察ポイント)

ここでは「やり方」の全体像を、準備 → 刺激 → 観察 の 3 ステップで整理します。具体的な刺激方法・濃度・回数は、必ず各施設のプロトコルや主治医の指示を優先してください。

準備:姿勢・モニタリング・ PPE

  • 座位または半座位で、頭頚部を中間位に保てる姿勢をとる(必要に応じてポジショニング)。
  • 必要に応じて SpO₂ モニタや血圧計を装着し、安静時の値と呼吸状態を確認する。
  • PPE(手袋・マスク・フェイスシールド等)、ティッシュ・廃棄容器を準備し、手指衛生を徹底する。
  • 検査前に安静呼吸を 30 秒程度観察し、咳や呼吸困難の有無・声質のベースラインを把握する。

手順:刺激と咳反応の観察

  1. 説明と同意:目的・方法・想定される咳反応・中止基準をわかりやすく説明し、同意を得る。
  2. 刺激:施設標準の方法(例:ネブライザー・咽頭刺激など)で、決められた濃度・時間・回数の刺激を行う。
  3. 観察:刺激中および刺激後の一定時間、咳反応の有無・遅れ・強さ・連発性を観察し、必要に応じて声質や SpO₂ の変化も記録する。
  4. 回復確認:咳反射が落ち着いたあと、呼吸状態・ SpO₂ ・自覚症状(息苦しさ・めまいなど)がベースラインに戻るか確認する。

STEP 1:説明・同意 → STEP 2:刺激の実施 → STEP 3:咳反応と SpO₂ の観察、という流れをチームで共有しておくと、評価が標準化しやすくなります。

観察ポイント:不顕性誤嚥を疑うサイン

  • 即時咳:刺激とほぼ同時に強い咳が出る場合は、気道防御が保たれている可能性があります。
  • 遅延咳/弱い咳:刺激から時間がたってからの咳、単発で弱い咳のみなどは、不顕性誤嚥や咳反射低下を疑う所見です。
  • 咳後の声質:湿性嗄声(ゴロゴロした声)、話しにくさの訴えなどがあれば要注意です。
  • バイタル変化:SpO₂ の 3–4%以上の低下が持続する、呼吸数増加、顕著な呼吸苦・胸痛が出現した場合は中止を検討します。
  • 全身状態:顔面蒼白、発汗、強い倦怠感・めまい・嘔気など、全身的な苦痛が増大していないか確認します。

中止基準と禁忌

咳テストは比較的簡便な検査ですが、呼吸・循環への負荷が増すため 禁忌や慎重適応 を明確にし、観察中に中止基準を超えた場合は速やかに終了する必要があります。以下はあくまで一例であり、最終判断は主治医と施設プロトコルに従ってください。

※表は横スクロールで確認できます(スマートフォンなどの狭い画面では左右にスワイプしてください)。

咳テストの禁忌・慎重適応・中止基準(成人・病棟を想定)
区分 具体例 対応
禁忌 重度の低酸素血症(例:安静時 SpO₂ ≦ 90%)、コントロール不良の不整脈、急性冠症候群直後、意識障害や協力不能で指示理解が困難な状態 など 咳テストは実施せず、主治医と相談し、画像検査・血液ガスなど他の評価方法を優先する。
慎重適応 重度 COPD・高度肺高血圧・重症心不全、安静臥床が必要な急性期、強い不安や拒否がある場合 など 主治医と事前に適応を検討し、必要最小限の刺激・十分なモニタリング・中止基準の事前共有のもとで慎重に実施する。
実施中止基準 SpO₂ が 3–4%以上低下し回復しない、強い呼吸苦・胸痛、顕著なめまい・嘔気・顔面蒼白、意識状態の変化、患者本人からの中止希望 など 直ちに検査を中止し、安静確保・姿勢調整・酸素投与などを検討。必要に応じて主治医に報告し、以後の評価・治療方針を再検討する。

※具体的な数値基準や適応可否は、医師の指示および施設内マニュアルに従ってください。

結果の見方と次アクション

  • 陽性/境界:明らかな咳反射低下や遅延・弱い咳しか出ない場合は、不顕性誤嚥リスクが高いと判断し、主治医へ情報共有のうえ VE/VFSS など精査を検討します。同時に、姿勢(頚部前屈・側臥位など)や食形態の調整、嚥下訓練、口腔ケア強化などの介入優先度を高めます。
  • 陰性でも臨床的に疑わしい場合:咳テストが陰性でも、湿性嗄声・反復肺炎・サチュレーション低下などがあれば、 RSST・改訂水飲みテスト・フードテストなども併用し、総合的に不顕性誤嚥を評価します。
  • 再評価のタイミング:急性期や介入開始直後は 1–2 週間を目安に再評価し、状態が安定している場合でも、食形態変更や全身状態の変化に応じて定期的にフォローします。

不顕性誤嚥リスクを評価するときは、咳テスト単独ではなく、 RSST や改訂水飲みテストなどを含めた サイレント誤嚥スクリーニング 5 点セット としてフロー化しておくと、ベッドサイドでの抜け漏れ防止に役立ちます。

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

刺激濃度・回数はどう決めればよいですか?

刺激方法・濃度・回数は、必ず各施設の標準手順と主治医の指示に従います。本記事と配布物では「観察ポイント」と「記録の仕方」を示しており、具体的な数値設定は施設プロトコルを優先してください。

咳テストが陰性なら、不顕性誤嚥の心配はありませんか?

いいえ、陰性だからといって不顕性誤嚥を完全に否定できるわけではありません。湿性嗄声や微熱、反復する肺炎歴など臨床所見で疑いが残る場合は、 VE/VFSS や他のスクリーニング( RSST・改訂水飲みテスト など)を組み合わせて評価します。

高齢で咳が弱い患者さんは、どのように評価すればよいですか?

高齢者では筋力低下や呼吸機能低下により、そもそも強い咳が難しいことがあります。「咳が出た/出ない」だけでなく、咳の立ち上がりの速さ、連発の有無、咳後の声質や SpO₂ の変化、日常生活でのむせ・肺炎歴なども含めて総合的に判断することが重要です。

おわりに

実地では「安全確認 → 咳テストなどのベッドサイドスクリーニング → VE/VFSS 等の精査 → 姿勢・食形態・口腔ケアの調整 → 再評価」というリズムをチームで共有しておくことが、不顕性誤嚥による肺炎を減らすうえで重要です。咳テストの限界と強みを理解し、多職種で同じ観察ポイント・中止基準を使うことで、情報伝達の精度も高まります。

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参考文献

  1. Wakasugi Y, Tohara H, Nakane A, et al. Usefulness of a handheld nebulizer in cough test to screen for silent aspiration. Odontology. 2014;102(1):76–80. doi:10.1007/s10266-012-0085-y. PubMed
  2. 若杉葉子, 戸原玄, 中根綾子, ほか. 不顕性誤嚥のスクリーニング検査における咳テストの有用性に関する検討. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2008;12(2):109–117. J-STAGE
  3. 鈴木瑠璃子, ほか. 摂食・嚥下障害患者の咳閾値と咳テストのクエン酸至適濃度の研究. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2012;16(1):13–19. J-STAGE
  4. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 摂食嚥下障害の評価 2019. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会; 2019. PDF
  5. Marques-Santos L, Moreira R, Carvalho J, et al. Diagnostic accuracy of cough reflex testing for dysphagia and aspiration risk: a systematic review and meta-analysis. Front Neurol. 2025;16:1526459. doi:10.3389/fneur.2025.1526459. Article

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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