ホーエン・ヤール重症度分類をわかりやすく解説

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ホーエン・ヤール重症度分類とは?(パーキンソン病の重症度を共有する軸)

評価スキルで差がつくキャリアの整え方を確認する(PT キャリアガイド)

Hoehn & Yahr(ホーエン・ヤール)重症度分類は、パーキンソン病の重症度を 5 段階で示す代表的なスケールです。片側症状のみのステージ I から、車椅子・臥床レベルのステージ V まで、「どのくらい進行しているか」をチームで共有するための共通言語として使われます。本記事では、とくに臨床で迷いやすいステージ 3・4・5 の違いを中心に、理学療法士目線で整理します。

原法に加えて、改訂版では 1.5/2.5 といった中間ステージが導入され、より細かい「重症度のグラデーション」が表現できるようになりました。パーキンソン病の重症度分類として、ホーエンヤール重症度分類と MDS-UPDRS、QOL 指標をどう使い分けるかもあわせて解説します。

ステージ分類の早見表(5 段階+改訂 1.5/2.5)

ホーエン・ヤール重症度分類(成人・臨床現場向け簡易要約/2025 年版)
ステージ 主症状の目安 歩行・転倒 ADL PT の重点
I 片側優位の症状(振戦・固縮・寡動) 独歩可/転倒低 自立 運動学習の初期化・体幹可動性・非麻痺側の過用に注意
II 両側症状だが 姿勢不安定性なし 屋内独歩可/凍結歩行は稀 多くは自立 歩行戦略・外部キュー・家庭内環境の軽微改修
III 姿勢反射障害あり(引き戻し試験で後方反応低下) 転倒リスク上昇/方向転換で不安定 一部で見守り・部分介助 転倒予防プログラム・バランス訓練・歩行補助具選定・住宅改修
IV 重度の姿勢障害・体幹前屈/すくみ歩行が顕著 屋内で補助具・介助が必要 多くで介助 立ち上がり・移乗戦略、外部キュー併用、介護者教育、褥瘡予防
V 車椅子常用または臥床がち 移乗・体位変換に全介助〜最大介助 全介助 介助量最小化・二次障害(拘縮・呼吸・嚥下)予防・福祉用具最適化
  • 1.5=左右差を伴う軽症(片側優位)
  • 2.5=軽度両側症状だが 姿勢不安定性なし

ホーエンヤール分類の「覚え方」としては、I・II=転倒少ない自立期、III=姿勢反射障害で転倒が増える境目、IV・V=介助と福祉用具が前提の期とざっくり分けておくと、チーム内での共有がスムーズです。

判定の注意点(誤判定を防ぐコツ)

H&Y は短時間で使える一方、判定基準の取り違えでステージが過大・過小評価されがちです。とくに「ステージ 3 なのか 4 なのか」で迷う場面が多く、ここがパーキンソン病の重症度分類の詰まりどころになりやすいです。下記 5 点をカルテに併記すると再現性が上がります。

  1. 薬剤状態ON/OFF のどちらで評価したかを明記(可能なら両条件で)。
  2. 姿勢不安定性=III の鍵:引き戻し試験(pull test)で 2 歩以上の後退や介助が必要なら III 以上。
  3. 凍結歩行のみは III 条件ではない:姿勢反射障害の客観所見で判断。
  4. 左右差の扱い:片側優位は 1.5、軽度両側は 2.5 を検討。
  5. 補助具の影響:常用補助具の有無・種類を記録(III〜V の運用に影響)。

ステージ別の PT 目標例(ワンポイント)

  • I:体幹可動性・回旋の再学習、ホームエクササイズ定着。
  • II:外部キュー(視覚・聴覚)+デュアルタスクの初期導入、家庭内の軽微改修。
  • III:転倒予防プログラム(方向転換・立位バランス)、補助具最適化、住宅改修の具体化。
  • IV:立ち上がり・移乗の分解練習、介助者教育、福祉用具・住環境の包括調整。
  • V:褥瘡・拘縮・呼吸管理を含む二次障害予防、ポジショニング、座位耐久の確保。

評価から介入までの標準フローはこちらで復習できます(ホーエン・ヤール重症度分類を「どの段階で何を目標にするか」という視点で読み返すのに役立ちます)。

現場の詰まりどころ(よくある誤解と対策)

  • 「凍結歩行=必ず III 以上」ではない
    凍結歩行は II でも見られることがあり、姿勢反射障害の有無を pull test で別途確認する必要があります。
  • 「IV と V の線引き」が曖昧になる
    「屋内移動を自力でどこまで担保できているか(補助具を含めて)」「臥床時間が生活の何割を占めているか」をチームで具体的に言語化すると判定しやすくなります。
  • 薬剤 ON/OFF が混在した記録
    H&Y が ON 時・OFF 時のどちらを示しているかが曖昧だと、翌月の評価や他職種が読んだときに解釈がぶれます。必ず「III(ON)」などの形で併記しましょう。
  • MDS-UPDRS のスコアとの整合性
    H&Y では「III」としていても、MDS-UPDRS で体幹不安定性がほぼ見られないケースでは、再評価やチームでのすり合わせが必要です。

関連指標との関係(MDS-UPDRS・QOL スケールなど)

H&Y は重症度の 要約 を共有するための指標で、症状別の詳細な観察や治療反応性の追跡は MDS-UPDRS が適します。生活の質の変化は PDQ-39 などで補足し、H&Y×MDS-UPDRS×QOL の三位一体で評価設計すると臨床判断の精度が上がります。

リハでは「 H&Y に応じた転倒・移動・ ADL の現実的目標」を合意し、介入と再評価のサイクルを明確にしておくとチーム合意が得やすくなります。とくにステージ 3・4 では、転倒歴・補助具・住宅改修など複数要素を H&Y とセットで記録することで、カンファレンスでの共有がスムーズになります。

記録テンプレ(コピペ用)

H&Y:III(ON)/pull test:2歩後退・介助要/補助具:T字杖常用/転倒:過去3か月2回/メモ:方向転換で不安定、外部キュー有効

参考文献

  1. Hoehn MM, Yahr MD. Parkinsonism: onset, progression and mortality. Neurology. 1967;17(5):427-442. doi:10.1212/WNL.17.5.427
  2. Goetz CG, Poewe W, Rascol O, et al. Movement Disorder Society Task Force report on the Hoehn and Yahr staging scale: status and recommendations. Mov Disord. 2004;19(9):1020-1028. doi:10.1002/mds.20213
  3. Goetz CG, Tilley BC, Shaftman SR, et al. Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS). Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170. doi:10.1002/mds.22340

おわりに

ホーエン・ヤール重症度分類は、パーキンソン病の「どのステージにいるか」を共通言語で押さえるための入り口です。ただし実際の介入は、転倒歴や補助具、住環境、家族支援など多くの要素と組み合わせて考える必要があります。本記事で示したステージ別の目標例や詰まりどころを手がかりに、担当ケースごとに「この人にとってのステージ 3 とは何か」をチームで具体的に言語化していけるとよいと思います。

臨床では、評価→目標設定→介入→再評価のサイクルを回し続けることが、患者さんの生活とキャリアの両方を守るベースになります。H&Y だけに頼らず、MDS-UPDRS やバランス・歩行評価、QOL 指標を組み合わせて、無理のないペースで評価軸を増やしていきましょう。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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よくある質問(FAQ)

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改訂 H&Y の「1.5」「2.5」は何が違いますか?

1.5は片側優位の軽症(左右差あり)を、2.5は軽度の両側症状で姿勢不安定性がない状態を示します。原法の 5 段階だけでは拾いにくかった「軽症〜中等症のグラデーション」を共有しやすくするための区分です。

ステージ 3 と 4 の違いがいつも曖昧になってしまいます。

ステージ 3 は「姿勢反射障害ありだが、屋内歩行はある程度自立している」レベル、4 は「屋内でも補助具や介助が前提」のレベルと整理すると覚えやすいです。体幹前屈の角度だけでなく、「どの範囲で一人で動けるか」を基準にすると判定がぶれにくくなります。

pull test は何歩下がれば「III」になりますか?

一般に2歩以上の後退介助が必要なら姿勢反射障害あり(III 以上)と判断します。凍結歩行の有無だけでは III かどうかは決まりません。安全を確保した上で、再現性を持って評価できる条件をチームで決めておきましょう。

ON・OFFのどちらで評価しますか?

施設方針に従いますが、評価時の薬剤状態(ON/OFF)を必ず併記することが重要です。可能であれば ON・OFF 両方で評価を行い、H&Y のステージがどの程度変化するかを追っていくと、治療反応性や生活上の困りごとを整理しやすくなります。

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