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サルコペニアの定義と臨床的意義
サルコペニアは「低骨格筋量」だけでは確定せず、低筋力や身体機能低下のいずれか(または両方)を伴う場合に診断されます。AWGS2019 は、確定診断には低筋量+(低筋力または低身体機能)を求め、3 要素すべてが低下する場合を重症と定義しました。
これにより PT は、簡便なスクリーニングから客観的測定までを標準化し、転倒・入院・死亡と関連するアウトカムを早期に修正できます。特に地域では CC や SARC-F により拾い上げ、医療現場では SPPB・5回立ち上がり・歩行速度で機能低下を可視化します。
診断基準の変遷:EWGSOP→EWGSOP2→AWGS2019
2010 年の EWGSOP は世界で初めて統一的な診断基準を示し、研究や介入試験を加速させました。しかし欧米人中心の基準であり、アジア人では体格や生活習慣の違いから過小・過大評価の懸念がありました。
2018 年の EWGSOP2 では「低筋力」を一次指標とする考え方が導入され、早期抽出の重要性が強調されました。2019 年の AWGS はこれを踏まえ、アジア人の大規模データを用いて閾値を改訂。診断アルゴリズムも地域(コミュニティ)と医療(クリニカル)の二経路を整備し、実臨床に即した活用が可能となりました。
EWGSOP(2010)の骨格筋量+機能
- 歩行速度・握力・DXA 等を用いた初の国際標準化
- 以後の研究加速に寄与
EWGSOP2(2018)の“スクリーニング→確認→重症度”
- SARC-F で抽出し、筋力→筋量→機能の順で重症度を決める臨床アルゴリズムへ進化
AWGS2019の診断アルゴリズム(コミュニティ/クリニカル)
コミュニティでは、CC(男<34cm、女<33cm)や SARC-F(≥4)、SARC-CalF(≥11)で疑い例を抽出し、握力または 5 回立ち上がりで低筋力/低機能を確認します。
クリニカルでは、臨床症状や同スクリーニングの後に(1)握力、(2)6 m 通常歩行 < 1.0 m/s・5 回立ち上がり ≥ 12秒・SPPB ≤ 9、(3)DXA / BIA の SMI を測定します。
低筋量+(低筋力 or 低機能)で確定、3 要素すべて低下で重症と判定します。SARC-CalF の閾値は ≥ 11 が広く用いられますが、感度改善目的に 7 点を支持する報告もあります。
コミュニティ:CC・SARC-F・SARC-CalFで抽出
- 住民健診や通所では測定負担の小さい CC や問診票を優先
- カットオフ下なら評価段階へ進みます
クリニカル:筋力・機能・筋量で確定
- ベッドサイドから外来まで同一アルゴリズムで運用可能
- 装置の有無で DXA / BIA を選択
AWGS2019のカットオフ値 早見表
下記に AWGS2019 が提示するカットオフ値をまとめました。さらに、臨床での活用をイメージしやすいように、サルコペニア評価チェックリストも併せて掲載します。日常の健診・入院リハいずれの場面でも活用できる内容になっています。

- ASMI=身長補正四肢筋量指数
- SARC-CalF は SARC-F に CC<34/33cm なら+10 点
測定の実務ポイント

- 握力
- 座位・肘屈曲 90°・前腕中間位・手関節軽度背屈を統一し、左右 2 ~ 3 回で最大値採用
- 機種間差に留意し同一機で追跡
- 歩行速度
- 6 m 区間(助走・減速を確保)、通常歩行を 2 回実施して平均化
- 5回立ち上がり
- 座面高を一定、腕組みで最大努力、途中停止なし
- SPPB
- 静的バランス 3 課題+4 m 歩行+ 5 回立ち上がり
- 合計 0 ~ 12 点
- CC
- 非伸縮メジャーで腓腹最大部を水平に、浮腫の影響を避け同一時間帯で測定
- 再現性は「同一条件・同一検者・同一機器」が基本
握力測定の標準化
- Jamar 等はポジション2、肘 90° 屈曲で高い再現性
- 試行間休息を確保し最大努力を引き出す
SPPB/5回立ち上がりの実施条件
安全性確認→実施→未完了は 0 点扱いなど、スコアリング手順を事前共有しておくとよいです。
まとめ
AWGS2019 は、アジア人の研究エビデンスを踏まえて、抽出(SARC-F/CC)→筋力・機能→筋量→重症度という臨床導線を明確化しました。確定には低筋量+(低筋力 or 低機能)を求め、3 要素低下で重症と定義します。
PT は、握力・6 m 歩行・5 回立ち上がり・SPPB の測定条件の標準化と、DXA / BIAの機器一貫性で再現性を確保し、転倒・ADL 低下・再入院の二次予防に直結させます。地域から病院まで同一ロジックで運用できる点が最大の強みです。
参考文献
- 山田実.サルコペニア新診断基準 (AWGS2019)を踏まえた高齢者診療.日本老年医学会雑誌.58巻,2号,2021:4,p175-182.
- 吉村芳弘,田中智香,齊藤智子.骨格筋疾患(筋障害)としてのサルコペニアの定義と診断―EWGSOP2 と AWGS 2019 を中心に―.Jpn J Rehabil Med.Vol.57,No.5,2020,p439-448.
- Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update. J Am Med Dir Assoc.
- Cruz-Jentoft AJ, et al. Sarcopenia: revised European consensus (EWGSOP2). Age Ageing.
- Barreto de Lima A, et al. Diagnostic performance of SARC-F and SARC-CalF. Sci Rep.
- Ishimoto T, et al. Accuracy of SARC-CalF cut-offs.
- Lee SH, et al. Measurement and Interpretation of Handgrip Strength.
- University of Missouri. SPPB Score Tool.
- Piodena-Aportadera MRB, et al. Calf Circumference Protocols.