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この記事は「摂食嚥下の 5 期モデル」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
「食べる」という行為は、生命維持に必要な栄養を取り入れる、味を楽しむ、食事の場面を通じてコミュニケーションを楽しむなど、私たちの生活においてとても大きな意味を持ちます。
「食べる」ことは、脳にある摂食中枢と嚥下中枢からの指令で口や喉を動かして、外部から水分や食物を口に取り込み、胃へ送り込むことで、これを「摂食嚥下」の運動といいます。
この運動に支障を来すのが摂食嚥下障害であり、食物を飲み込もうとすると気管へ入ってむせてしまう、食道へ入っていかず喉に残ってしまう、というような症状が特徴的にみられます。原因としては、脳卒中やパーキンソン病などの神経や筋肉の病気、あるいは舌・咽頭・喉頭がんなどがあります。
摂食嚥下障害で生じる問題は、肺炎・窒息・低栄養・脱水など生命の危険に直結する、とても深刻なものばかりです。また、食べることの障害は、医学的リスクだけでなく、食べる楽しみを失うという生活の質(QOL)の観点からも重要な問題になります。
- 摂食嚥下モデルの歴史について
- 摂食運動である先行期と準備期
- 嚥下運動である口腔期、咽頭期、食道期
- 摂食嚥下の随意運動と不随意運動について
- 摂食嚥下のプロセスモデル
摂食嚥下リハビリテーションの目標は、患者さんにとって安全かつ快適な摂食状態をつくり、QOLの向上を図ることになります。食事摂取することによる肺炎や窒息などのリスクに注意しながら、進めていかなければいけません。
こちらの記事を読むことで、摂食嚥下の 5 期モデルについての理解が深まり、摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションに貢献することができれば幸いです。是非、最後までご覧になってください!
【簡単に自己紹介】
埼玉県の医療機関で働いている理学療法士です
現在、院内にて入院患者様へのリハビリテーションと、介護保険サービスの方で利用者様への訪問リハビリテーションを行わせて頂いています!
主な取得資格は以下の通りになります
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
摂食嚥下とは
摂食嚥下とは、口腔、咽頭、喉頭、食道などの器官が互いに関連をもちながら動き、食べ物を口腔から胃まで運ぶ過程になります。
摂食嚥下の過程は、①先行期(認知期)②準備期(咀嚼期)③口腔期 ④咽頭期 ⑤食道期 の 5 段階すなわち「摂食嚥下の 5 期モデル」で説明することができます。
これらの過程に障害が生じ、食べること、飲み込むことがうまくできない状態を摂食嚥下障害といいます。
摂食嚥下障害の原因
嚥下障害の原因は多岐に渡りますが、構造そのものに異常がある「器質的障害」、構造上の問題はないが動きに障害がある「機能的障害」、「その他」に大別することができます。
項目ごとに例をあげていきます。
【器質的障害】
- 口腔がん
- 舌がん
- 咽頭がん
- 喉頭がん
- 食道がん
【機能的障害】
- 脳血管疾患(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
- 脳の損傷(頭部外傷、脳腫瘍、水頭症、低酸素脳症)
- 神経筋疾患(筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、筋ジストロフィー、脊髄小脳変性症、球脊髄性筋萎縮症)
- 反回神経麻痺
- 免疫性疾患(ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、多発性硬化症、炎症性筋疾患、膠原病)
- 認知症(アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭葉側頭型認知症)
- サルコペニア
【その他】
- 薬剤性(中枢神経伝達物質に作用する薬剤、抗コリン作用薬、口腔乾燥症を引き起こす薬剤、胃腸の運動性に悪影響を及ぼす薬剤)
- 心因性(統合失調症、うつ病、パニック障害、神経性やせ症)
- 全身性エリテマトーデス、強皮症
- 頸椎骨棘
- 食道アカラシア、食道 web、Zenker 憩室
- 中毒(リチウム中毒、有機リン中毒、ボツリヌス中毒)
- 電解質異常(低ナトリウム血症の急速な補正による浸透圧性脱髄症候群)
上記のように摂食嚥下障害にはさまざまな原因があげられます。したがって、摂食嚥下障害のアセスメントは栄養管理、リスク管理、QOL の向上の面から必要不可欠となります。
対象者が食べたり、飲み込みに対してどのような点に困っているのかを聞き取り、病歴、経過、身体所見、検査結果などを踏まえたうえで、フィジカルアセスメントを行い、何が原因であるのか、どこに原因があるのかを追求することが摂食嚥下のアセスメントに必要となります。
3期モデル→5期モデルへ
歴史を振り返ってみると、摂食嚥下の動態を説明するためには、さまざまな摂食嚥下モデルが提唱されてきました。
1813 年に、François Magendie が動物の喉頭を切開して観察したところ、嚥下中の声門閉鎖を確認し、喉頭蓋の除去では誤嚥が起こらず、両側反回神経と上喉頭神経を切断して誤嚥が起こることを実証しました。
その後、嚥下を「口腔期」「咽頭期」「食道期」の 3 つの時期にわけるという説を生理学の基本的論「Précis élémentaire de physiologie(1816)」で解説しています。
その後、リハビリテーションの観点から「口腔準備期」を追加した 4 期モデルが提唱されたものの、4 期モデルは液体やペーストなどひと口で飲み込める嚥下動態に適用可能なモデルであり、咀嚼を伴う嚥下を説明できるものとしてプロセスモデルが提唱されました。
しかし、摂食嚥下の段階には、食べ物を見て形や色を判断し、摂取物を口に運ぶという判断をする段階が必要であると議論され、その段階を「先行期」と位置付けられました。先行期を追加したモデルを 5 期モデルとし、臨床モデルとして現在広く用いられています。
摂食嚥下の5期モデル
それでは「摂食嚥下の 5 期モデル」について、「先行期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」の項目ごとに、わかりやすく解説していきます。
先行期
「先行期」は食物を認知し、食具を選択、一口量・食べるペースを決める段階になります。ポイントとなるのは「食べ物を認識する」という点になります。
私たちが食べ物を認識できるのは、無意識に視覚・触覚・嗅覚などを働かせているためになります。たとえば目の前にみかんがあるとします。
多くの方は目の前のみかんをみたとき、過去の経験や形・色・においなどから「これは食べられるものだ」と判断します。
食べられると判断した後は、実際に目の前のみかんを口に運ぶ動作に移ります。先行期に該当するのは、口に入れるという判断をするまでの段階です。
観察ポイントとしては、以下のような事象に注意して観察する必要があります。
- 覚醒不良
- 食事に集中できない
- 食べるペースが速い
- 一口量が多い
- 摂食動作の持続困難
- 不良姿勢
準備期
「準備期」では「口唇での取り込み」と「咀嚼・食塊形成」が行われています。
まず、食物を口の中へ取り込み、顎・舌・歯を使って咀嚼します。食物を唾液と混ぜ合わせながら、飲み込みやすい食塊をつくるところまでが「準備期」になります。
観察ポイントとしては、以下のような事象に注意して観察する必要があります。
- 十分に開口できない(開口保持が困難)
- 口角から飲食物がこぼれる(口唇閉鎖力が弱い)
- 咀嚼が弱く、食塊形成が不十分
- 食塊・水分の口腔内保持力の低下
口腔期
「口腔期」は食塊を舌の運動によって、口腔から咽頭へ送る段階になります。タイミング的には「ごっくん」をする直前の段階となります。
「口腔期」では「舌」がとても重要な機能を担っています。舌の機能が低下している場合、うまく食塊の送り込みができず、誤嚥や窒息の原因となります。
口腔期において問題を抱える方に対しては、舌の機能が低下していないか評価することや、舌の筋力である舌圧を鍛えることが重要になります。
観察ポイントとしては、以下のような事象に注意して観察する必要があります。
- 口腔内や舌上に食物が残渣する(送り込む力が弱い)
咽頭期
「咽頭期」は嚥下反射が起こり、食塊を咽頭から食道へ送る段階になります。タイミング的には「ごっくん」の部分に該当します。
この段階では舌や咽頭の筋力を利用して約 0.5 秒程度の短い時間の間に一気に食塊を食道へと送り込みます。
この短い間に正確に食道へ送り込む機能は非常に精密に制御されており、私たちが自分でコントロールできるのは嚥下反射のごく一部となります。
観察ポイントとしては、以下のような事象に注意して観察する必要があります。
- 嚥下反射の惹起遅延
- むせる
- 湿性嗄声、ガラガラ声になる
咽頭期の評価として有用な評価法の1つがRSSTになります。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【反復唾液嚥下テスト(RSST)を徹底解説についての記事はこちらから】
食道期
「食道期」は食道括約筋による閉鎖と蠕動運動により、食塊を食道から胃へ送る段階になります。タイミング的には「ごっくん」の直後に該当します。
いわゆる日常生活で食道期を意識することはないと思いますが、私たちが意識していない時でも不随意的に「蠕動運動」によって食塊を胃へと送り込んでくれています。
観察ポイントとしては、以下のような事象に注意して観察する必要があります。
- 食後の逆流がある
- 胸やけする感じ
- 食後に痰が絡む
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「摂食嚥下の 5 期モデル」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで、摂食嚥下の 5 期モデルについての理解が深まり、摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションに貢献することができれば幸いです。
参考文献
- 高田明子.嚥下モデルの進歩:プロセスモデル.信州医誌.52(5),2004,p401-402.
- 松尾浩一郎.プロセスモデルで考える咀嚼嚥下リハビリテーション.日本顎咬合学会誌.咬み合わせの科学,第35巻,第3号,2015,p243-248.
- 粟田麻友.嚥下障害.臨床栄養.145(4),p465-469,2024.