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摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類とは

摂食・嚥下障害の重症度を表すものに、2001 年に才藤らによって提唱された摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類があります。
摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類は英語では Dysphagia severity scale となり、略称は DSS となります。
摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)は、誤嚥という症状を判定の軸にして、摂食・嚥下障害の重症度を 7 段階で示した指標になります。
重症度の定義と解説に加え、対応方法と直接訓練の可否が示されており、治療の指針となる指標になります。
DSS 評価方法

DSS は摂食・嚥下障害の重症度を DSS 1 から DSS 7 までの 7 段階に分類し、DSS 1 が最重症、DSS 7 が正常範囲となります。
誤嚥の有無が評価の軸になっているため、臨床的に誤嚥のあるものは DSS 1 ~ 4、誤嚥のないものは DSS 5 ~ 7 に位置付けられます。
重症度と定義(解説)は以下のように分類されています。
- 正常範囲:臨床的に問題なし(治療の必要がない)
- 軽度問題:主観的問題を含め何らかの軽度の問題がある(主訴を含め、臨床的に何らかの原因によって摂食・嚥下に困難を伴う)
- 口腔問題:誤嚥はないが、主として口腔期障害により摂食に問題がある(先行期・準備期も含め、口腔期中心に問題があり脱水や低栄養の危険を有する)
- 機会誤嚥:時々誤嚥する、もしくは咽頭残留が著明で臨床上誤嚥が疑われる(通常の VF において咽頭残留著明、もしくは時に誤嚥を認める。食事場面での誤嚥が疑われる)
- 水分誤嚥:水分は誤嚥するが、工夫した食物は誤嚥しない(水分で誤嚥を認め、誤嚥や咽頭残留防止手段の効果は不十分であるが、調整食など食物形態効果を十分認める)
- 食物誤嚥:あらゆるものを誤嚥し嚥下できないが、呼吸状態は安定している(水分、半固形、固形食で誤嚥を認め、食物形態効果が不十分である)
- 唾液誤嚥:唾液を含め全てのものを誤嚥するため呼吸状態が不良である、あるいは嚥下反射が全く惹起されず呼吸状態が不良である(常に唾液も誤嚥していると考えられる状態であり、医学的な安定を保つことができない)
DSS 経管栄養の適応

摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)は、経管栄養の適応についての指標にもなります。
- 正常範囲:経管栄養は不要である
- 軽度問題:経管栄養は不要である
- 口腔問題:基本的に経管栄養は不要であるが、食欲不振や医学的要因により経口による栄養摂取量が少ない場合には経管栄養の併用が必要になることもある
- 機会誤嚥:「5.口腔問題」と同様に経口摂取と経管栄養の併用が必要になることがある
- 水分誤嚥:DSS 3 以下は胃瘻が検討されるレベルとなり、経管栄養が必要となる
- 食物誤嚥:経管栄養による栄養管理が基本となる
- 唾液誤嚥:経口摂取は困難であり、生命維持のためには、経管栄養が必要になる
DSS 摂食・嚥下訓練の適応

摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)は、摂食・嚥下訓練の適応についての指標にもなります。
直接訓練についてはリスク管理の観点から訓練を行う環境を定めて実施する必要があります。
間接訓練については環境を問わず実施することが可能であり、DSS 6 以下の全てのレベルで適応となります。
- 正常範囲:直接訓練、間接訓練のどちらも必要ない
- 軽度問題:主観的問題を含め何らかの軽度の問題があるため、その問題に合わせた直接的訓練が必要になることがある
- 口腔問題:主として口腔期障害により摂食に問題があるため、直接訓練の適応となる(直接訓練は一般病院や在宅で可能)
- 機会誤嚥:誤嚥することがあり直接訓練の適応となる。この DSS 4 以下では間欠的経管栄養法を併用している可能性がある(直接訓練は一般病院や在宅で可能)
- 水分誤嚥:水分で誤嚥することがあり直接訓練の適応となる(直接訓練は一般病院や在宅で可能)
- 食物誤嚥:経口摂取は困難なレベルとなる。直接訓練の適応はあるが、直接訓練を実施するのであれば、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査の設備があり、なおかつ言語聴覚士が在籍している必要がある
- 唾液誤嚥:医学的安定を目指した対応法が 基本となり、持続的な経管栄養法を要する(直接的訓練の適応外である)
DSS 食形態の選定
摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)は、食形態の選定についての指標にもなります。
- 正常範囲:常食
- 軽度問題:軟飯、軟菜食など柔らかめの食形態が必要になることが多い
- 口腔問題:軟飯、軟菜食、ペースト食など柔らかめの食形態が必要になることが多い。咀嚼の必要性が高くなく、咽頭への送り込みが楽である食事が考慮される
- 機会誤嚥:柔らかめの食形態、必要に応じて水分に増粘剤を使用する
- 水分誤嚥:水分に増粘剤が必須となる
- 食物誤嚥:経管栄養が基本となる
- 唾液誤嚥:経管栄養となる
DSS 使用上の注意点

摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)は摂食・嚥下障害の重症度を 7 段階に段階づけするだけではなく、重症度の定義と解説に加え、対応方法と直接訓練の可否、推奨される食形態が示されています。
臨床でも活用できる有用な指標になりますが、判断材料の軸としてるのは誤嚥の有無ということには注意が必要となります。
例えば食事形態については、誤嚥の有無だけでなく咀嚼や食塊形成などの能力なども踏まえて検討する必要があります。
摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類により DSS 5、DSS 6 のように判定したとしても、咀嚼能力や食塊形成能力、認知機能などの違いによって食事形態は変化させる必要があり、この選択には検査者の経験と主観が大きく影響します。
DSS 以外の摂食嚥下機能の判定方法
DSS 以外にも摂食嚥下機能を段階づけて判定する方法はございます。
「摂食嚥下能力グレード」と「摂食嚥下状況のレベル」の 2 つについて紹介します。
摂食嚥下能力グレード
摂食嚥下能力グレードは摂食嚥下の「できる能力」を判定する指標となります。ADL 評価方法でいえば、Barthel Index(バーセルインデックス)のように、「できる能力」を判定します。
摂食嚥下能力グレードは 10 段階の順序尺度であり、グレード1が最重症、10 が正常となります。評価方法および判定方法は以下のようになります。
- 基礎的嚥下訓練だけの適応あり
- 嚥下困難または不能、嚥下訓練適応なし
- 条件が整えば誤嚥は減り、摂食訓練が可能
- 楽しみとしての摂食は可能
- 一部(1 ~ 2 食)経口摂取
- 3 食経口摂取 + 補助栄養
- 嚥下食で 3 食とも経口摂取
- 特別に嚥下しにくい食品を除き 3 食経口摂取
- 常食の経口摂取可能、臨床的観察と指導要する
- 正常の摂食嚥下能力
以上のように 10 段階で判定することができる一方、下記のようにグレードにより重症度が一目で判断できるような指標になります。
- グレード 1 ~ 3 :I 重症(経口不可)
- グレード 4 ~ 6 :II 中等症(経口と補助栄養)
- グレード 7 ~ 9 :III 軽症(経口のみ)
- グレード 10 :IV 正常
摂食嚥下能力グレードの判定により、摂食介助が必要なときは数字の右側に A(assist の略)をつける(ex:8A)とされています。
摂食嚥下状況のレベル
摂食嚥下状況のレベルは摂食嚥下の「している能力」を判定する指標となります。ADL 評価方法でいえば、FIM(機能的自立度評価法)のように、「している能力」を判定します。
摂食嚥下状況のレベルは 10 段階の順序尺度であり、レベル1が最重症、 レベル 10 が正常になります。評価方法および判定方法は以下のようになります。
- 嚥下訓練を行っていない
- 食物を用いない嚥下訓練を行っている
- ごく少量の食物を用いた嚥下訓練を行っている
- 1 食分未満(お楽しみレベル)の嚥下食を経口摂取しているが代替栄養が主体となる
- 1 ~ 2 食の嚥下食を経口摂取しているが、代替栄養も行っている
- 3 食の嚥下食を経口摂取することが基本であり、不足分の代替栄養を行っている
- 3 食の嚥下食を経口摂取している。代替栄養は行っていない
- 特別に食べにくいものを除いて、3 食を経口摂取している
- 食物の制限はなく、3 食経口摂取している
- 摂食・嚥下障害に関する問題なし(正常)
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事が、摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類(DSS)についての理解を深めることに繋がり、臨床における摂食・嚥下障害に対するリハビリテーションにご活用いただければ幸いです。
参考文献
- 西村和子,加賀谷斉,柴田斉子,小野木啓子,稲本陽子,太田喜久夫,三鬼達人,田村茂,才藤栄一.嚥下内視鏡検査を用いない摂食嚥下障害臨床的重症度分類判定の正確性.Jpn J Compr Rehabil Sci.Vol 6,2015.
- 柴田斉子,戸田芙美,小野木啓子,稲本陽子,太田喜久夫,加賀谷斉,才藤栄一.機能評価と食事形態の選択.Jpn J Rehabil Med.2013,50,p900-904.