いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!
この記事は「低栄養の原因」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
低栄養という言葉に対する認知度は昔と比べて一段と高まっていることかと思います。
特に入院患者においては低栄養が多く認められることが知られており、中でもリハビリテーション病院に入院する患者は低栄養をきたしている可能性が高いと報告されています。
低栄養は単純に栄養摂取量が不足しているだけではなく、急性疾患・外傷や慢性炎症が複雑に絡み合って発生します。
医療でも介護でも、特にリハビリテーション専門職にとって見逃せない低栄養ですが、まだまだ分からないことも多いのではないかと思います。そんな人のために、こちらの記事をまとめました!
こちらの記事で低栄養の原因についての理解を深め、臨床における栄養管理、リハビリテーションのプログラムの立案ならびに負荷量設定の一助になると幸いです。是非、最後までご覧になってください!
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士として働いていると、一般的な会社員とは異なるリハビリ専門職ならではの苦悩や辛いことがあると思います。当サイト(rehabilikun blog)ではそのような療法士の働き方に対する記事も作成し、働き方改革の一助に携わりたいと考えております。
療法士の働き方に対する記事の 1 つが右記になりますが、"理学療法士は生活できない?PTが転職を考えるべき7つのタイミング"こちらの記事は検索ランキングでも上位を獲得することができております。興味がある方は、こちらの記事も目を通してくれると幸いです☺
低栄養とは
近年、成人における低栄養分類は整理が進み、表現型による分類から成因による分類への移行が進んでいます。
従来は「マラスムス」もしくは「クワシオルコル」に分類する方法が一般的でした。しかし、この方法は発展途上国で多く見られる小児の低栄養の分類を応用したものであり、日本の病院などで認められる成人の低栄養には当てはまらない部分があるという問題点がありました。
1997 年に Roubenoff らは加齢や疾患などによる体重減少や体組成変化を示す用語を整理し、表現 型に応じて「衰弱」「悪液質」「サルコペニア」の 3 つの名称で表すことを考案、現在の低栄養分類の基盤となる概念を提示しました。
その後 2009 年、Jensen らは成人低栄養を病因別 に整理し 、炎症の有無と程度を基に「飢餓」「慢性疾患」「急性疾患・損傷」の 3 つの概念で示すことを提案しております。
慢性疾患による低栄養は「悪液質」、急性疾患・損傷による低栄養は「侵襲」と言い換えることができます。
また、Jensen らの考えを基に、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)と米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)による国際ガイドライン委員会は 2010 年に臨床現場における成人低栄養症候群の成因別分類法を提案しております。
- 飢餓関連低栄養:炎症反応が存在せず、栄 養摂取不足によって生じる
- 慢性疾患関連低栄養:軽度から中等度持続的炎症により生じる
- 急性疾患または外傷関連低栄養:急性で強い炎症によって生じる
以上を通して、低栄養の原因は「飢餓」「悪液質」「侵襲」の 3 つに分類されていることがわかります。また、低栄養の原因はこの中の 1 つとは限らず 2 種類ないしは 3 つ全てが低栄養の原因になっている可能性があります。
低栄養に対して適切な対策を講じるためには、原因の究明が必要になります。「飢餓」「悪液質」「侵襲」について、もう少し詳しく後述していきます。
低栄養のアセスメントとスクリーニング
「飢餓」「悪液質」「侵襲」についてを考える前に、そもそも低栄養といえる状態であるのかどうかをスクリーニングテストにより確認する必要があります。
スクリーニングテストはいくつかの種類があります。各自スクリーニングテストごとに、記事でまとめておりますので興味があるテストがあれば目を通してみてください。
多くのスクリーニングテストがあって、どれを使用するか迷うと思いますが、各スクリーニングテストごとに特徴やメリットがございますので、評価対象者の状態や評価する環境に応じて、適切なものを選択することも必要になると思います。
- MNA®-SF:簡易栄養状態評価表
- CONUT
- NRS2002(Nutritional Risk Screening)
- NSI(Nutritional Screening Initiative)
- MST(Malnutrition Screening Tool)
- GNRI (Geriatric Nutritional Risk Index)
低栄養の原因と症状
スクリーニングテストの結果、低栄養と判定された場合には、その原因を究明する必要があります。
低栄養の原因は「飢餓」「悪液質」「侵襲」の 3 つに分類されています。原因はこの中の 1 つとは限らず、2 種類ないしは 3 つ全てが低栄養の原因になっている可能性があります。
低栄養の原因によって、低栄養改善に向けた対応も異なりますので、質の高い栄養管理を行うためには、正確な判断を行う必要があります。
飢餓
飢餓とは、エネルギー摂取量がエネルギー消費量より少ない状態が続き、栄養不良となることを意味します。
国際連合食糧農業機関では、エネルギー摂取量が基礎エネルギー消費量の 1.54 倍に 満たない人々を飢餓と定義しています。
基礎エネルギー消費量を算出する方法はいくつかありますが、最も有名なものが「Harris-Benedict」の公式を使用した算出方法になります。
基礎エネルギー消費量を算出する計算式は性別によって異なりますので注意が必要です。
男性:66.47 + (13.75 × 体重) + (5 × 身長) – (6.76 × 年齢)
女性:665.1 + (9.56 × 体重) + (1.85 × 身長) – (4.67 × 年齢)※ 体重:kg 身長:cm 年齢:歳
【ハリス-ベネディクトの式とは】
飢餓の場合、体外からのエネルギー供給(経口摂取+経管栄養+静脈栄養)が不足しているため、体内の糖質、脂質、蛋白質を分解することで生体に必要なエネルギーを産生することになります。
短期の飢餓では、肝臓のグリコーゲンを分解することで対処しようとしますが、グリコーゲンは 12 ~ 24 時間で枯渇するため、その後も飢餓状態が続くようであれば蛋白質と脂質を分解してエネ ルギーを産生します。
人体の蛋白質がどこに多く貯留されているのかというと筋肉になります。そのため、飢餓状態では筋肉の蛋白質が脂肪とともに分解され減少します。
さらに飢餓が悪化していくと、免疫能の低下、創傷治癒遅延、臓器障害を認めることになり、除脂肪体重(LBM)の 30 ~ 40 %を失うと窒素死や餓死に至ると考えられています。
レジスタンストレーニングで筋肉量を増やすには、筋肉合成に必要な原材料であるアミノ酸や細 胞膜に必要な脂質だけでなく、エネルギーが必要 になります。
しかし飢餓では、原材料のアミノ酸、脂質、エネルギーがすべて不足しております。つまり、飢餓の時にレジスタンストレーニングを行っても、筋肉の蛋白質をさらに分解させることになるため、飢餓状態でのレジスタンストレーニングは禁忌となります。
実際に臨床では飢餓状態といえる場面によく遭遇します。例えば、経口接種もしくは経鼻経管栄養を実施している患者様が誤嚥性肺炎を発症し、禁食になるようなことは、警戒していたとしても日常的に起こってしまうことだと思います。
この場合、1 週間程度は末梢点滴管理で抗生剤を行いながら肺炎の改善に努めることがあると思います。しかし、肺炎の改善が思わしくなく末梢点滴管理が継続され、低栄養を引き起こしたのであれば、その状態は飢餓といえます。
このような状況にも関わらず何も考えずに運動療法を継続して、レジスタンストレーニングを行った場合、筋力がつかないどころか筋肉の分解を助長してしまいます。そのため、低栄養の原因を考えてリハビリテーションを行う必要があります。
リハビリテーションと栄養については、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらもご覧になって頂けると幸いです☺️ 【リハ栄養についての記事はこちらから】
悪液質
悪液質については低栄養を考えるときには必要不可欠な言葉になりますが、悪液質という言葉について馴染みがない方も多いかと思います。
悪液質とは cachexia(カヘキシア)ともいい、がんや慢性心不全、慢性腎不全、自己免疫疾患などの慢性疾患を背景とした低栄養であり、骨格筋量の低下を特徴とします。
ヨーロッパ緩和ケア共同研究では、悪液質を以下のように定義しています。
「悪液質は多くの要因による症候群である。従来の栄養サポートでは十分な回復が難しい骨格筋減少の進行を認める。脂肪は喪失することもしないことも ある。食思不振や代謝異常の併発で蛋白とエネルギーのバランスが負になることが、病態生理の特徴である。」
悪液質の原因疾患には、がん、慢性感染症(結核・AIDS)、膠原病(関節リウマチ)、慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、慢性閉塞性肺疾患、肝不全、炎症性腸疾患などが挙げられます。
これらの疾患を有する障害者や高齢者に低栄養を認める場合に悪液質の存在を疑う必要があります。
悪液質は多くの要因による症候群であり、複雑な病態からエネルギーバランスが負の状態に陥ります。飢餓とは異なり適切なエネルギー摂取量を投与するだけでは、栄養状態の改善に至らない可能性があります。そのため、飢餓と悪液質の鑑別が 重要になります。
侵襲
侵襲とは、生体の内部環境の恒常性を乱す可能性がある刺激になります。
具体的には手術、外傷、骨折、感染症、熱傷などが挙げられ、急性の発熱や C 反応性蛋白(CRP)の上昇が目安となります。
侵襲を理解するには侵襲下の代謝変化について適切に学ぶ必要があります。侵襲は傷害期、異化期、同化期の 3 つの時期に分類されます。
傷害期とは名前の通り、手術・外傷・骨折・感染症・熱傷を発症した時期を示します。
傷害期の後は異化期に移行しますが、異化期では強い炎症反応が発生し、損傷を受けた組織の修復および免疫系を活性化させるために、エネルギー消費量が増大します。
同時に、筋肉のたんぱく質がアミノ酸に分解され、これを基質とした糖新生により供給されます。要するに、侵襲の程度が大きいほど筋肉は分解されてしまいます。この時期にエネルギーやたんぱく質を多く投与したとしても、筋肉の分解の抑制はできないと考えられています。
そのため、異化期では栄養状態の悪化軽減が目的となり、侵襲の原因疾患の治療が優先となります。高度の侵襲では 1 日で 1 kg の筋肉量が減少すると報告されています。異化期のレジスタンストレーニングは、筋肉の分解を助長するだけになりますので禁忌となります。
疾患の治療が奏功すると、炎症や代謝亢進も改善し、同化期に至ります。同化期では適切な栄養投与と運動療法を併用することで、筋肉のたんぱく質を増やすことができます。
発熱や C 反応性蛋白(CRP)が正常値に戻り、異化期から同化期に移行したことを確認した後はリハビリテーションの絶好の機会となります。リハビリテーションによるエネルギー消費量を考慮したエネルギー摂取量を設定して栄養状態および身体機能の改善を図ります。
前述しましたが、侵襲時に多くのエネルギーを経口摂取、経管栄養、静脈栄養で投与したとしても筋肉のたんぱく質の分解を抑制は困難となります。
むしろ過栄養は、ノルエピネフリンの分泌を増加させることにより、栄養ストレスとして骨格筋のたんぱく質の分解を促進させると考えられています。
高齢者が低栄養になりやすい原因
低栄養の原因について説明してきましたが、高齢者は特に低栄養を来す可能性が高く、歳を取るにつれて、低栄養状態になる方が増えていくといわれています。低栄養の状態が続くことで感染症にかかりやすくなったり、筋力低下が進行すると言われているため、高齢者の方は特に低栄養に対する適切な知識を身につけ、対策を講じる必要があります。
高齢者が低栄養になる理由はさまざまですが、代表的なものとして、次のような原因があげられます。
- 筋力が低下するため、買い物に行ってもパンやカップ麺など軽いものを選ぶようになる
- 腰や膝の痛みで台所に長時間立てなくなり、簡単な食事で済ませることが増える
- 噛む力が衰えるため、やわらかいものや繊維がないものを好むようになり、食物繊維の摂取が不足する
- 味覚が低下し、食事を楽しめなくなる
- 消化吸収機能の低下により、食欲が低下する
- 交通手段が限られている地域に住んでいる場合、日持ちしない生鮮食品の購入を控えるようになる
- 経済的な理由により十分な食料を購入することができなくなる
- 喪失体験などの精神的ストレスで食欲が低下する
- あっさりした味付けの料理を好み食事が偏る
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「低栄養の原因」をキーワードに考えを述べさせていただきました。
こちらの記事が低栄養の原因についての理解力向上をもたらし、臨床における栄養管理、リハビリテーションのプログラムの立案ならびに負荷量設定に少しでもお力添えになれば幸いです!
参考文献
- 若林秀隆.栄養障害の基本.月刊薬事.Vol.54,No.11,2012.10,p757-760.
- 若林秀隆.リハビリテーションと臨床栄養.Jpn J Rehabil Med.2011,48,p270-281.
- 西岡心大.低栄養とリハビリテーション栄養管理の考え方 – 特にエネルギー必要量に関して-.日本静脈経腸栄養学会雑誌.3(14),2016,p944-948.