フレイルに対するリハビリテーション|判定→介入→モニタリングの実践フロー
本記事では、改訂 日本版フレイル基準( J-CHS 基準 )を起点に、フレイルの実践的マネジメントを① スクリーニング( J-CHS 中心 )→ ② 多面的介入(運動・栄養・口腔・薬剤・社会)→ ③ モニタリングの 3 段で整理します。現場で「評価して終わり」にならないよう、判定(ロバスト/プレフレイル/フレイル)よりも“どの項目が落ちているか” から次の一手を決める運用に寄せて解説します。
結論としては、「まず測る → 小さく始める → 短サイクルで見直す」が最短距離です。プレフレイルでは、歩行+下肢レジスタンス+たんぱく質の 3 点を少量・高頻度で始め、1〜2 週ごとに再評価して介入量を調整すると、変化を掴みやすくなります。
臨床で迷わない評価 → 介入 → 再評価の流れを 5 分で確認( PT キャリアガイド )
結論・早見表( 1 分で把握 )|J-CHS は「判定」より「次の一手」を決める道具
J-CHS(改訂 日本版フレイル基準)は、体重減少・易疲労感・身体活動量低下・歩行速度低下・握力低下の 5 項目で、0 = ロバスト/ 1〜2 = プレフレイル/ 3〜5 = フレイルと整理します。臨床で効くコツは、点数そのものよりも“落ちている項目 → 介入ターゲット” を即決することです。
たとえば「歩行速度低下」なら歩行量と速歩インターバル、「握力低下」なら下肢・体幹のレジスタンス、「体重減少」なら摂取量の底上げと体重フォロー、のように項目ごとに “次の一手” を固定化すると、フレイル運動療法が回りやすくなります。
| 落ちた項目 | まず確認すること | 最初の介入(例) | フォローで見る指標 |
|---|---|---|---|
| 体重減少 | 直近の食事量・間食・補助食品、薬剤、嚥下・口腔 | 摂取量の底上げ(主菜+間食)+ 体重ログ | 体重(週 1 )+ 食事量の主観 |
| 易疲労感 | 睡眠、貧血、感染、抑うつ、薬剤(鎮静・降圧など) | 量 ↓/頻度 ↑ で開始し、生活リズムを整える | 疲労(主観)+ 活動量(回数) |
| 身体活動量低下 | 「何を・何分・週何回」を具体行動で確認 | 週単位の回数目標(まず週 2 回)を先に決める | 歩数/実施回数(週単位) |
| 歩行速度低下 | 測定条件(助走・減速・補装具・介助)を固定 | 歩行量の底上げ + 速歩インターバルを段階導入 | 4 m 歩行(時間)+ 転倒/ふらつき |
| 握力低下 | 左右最大値、姿勢・肘角度の条件固定 | 下肢+体幹のレジスタンスを少量・高頻度で開始 | 握力(最大値)+ 5 回椅子立ち上がり |
スクリーニング|まずは J-CHS で「いま」を把握する
J-CHS(ジェイ・シーエイチエス)は、「改訂 日本版フレイル基準( Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria:J-CHS )」として提案された表現型フレイルの評価法です。まずは入口(共通言語)をそろえ、評価結果をそのまま介入へ接続することが目的になります。
あわせて、現場で「どの評価をどこまでやる?」で迷いやすい場合は、フレイル評価の選び方(基本チェックリスト・ J-CHS ・ SPPB の使い分け)も参考になります(スクリーニング → 深掘り → 再評価の組み方をまとめています)。
改訂 J-CHS 5 項目(カットオフ)と測定のコツ
改訂版( 2020 年提案)では、各項目の基準が整理されています。運用上は「条件固定(同じ環境・同じ補装具・同じ介助)」を徹底すると、再評価の信頼性が上がります。
| 項目 | 評価の目安 | 測定・確認のコツ | 次の一手(例) |
|---|---|---|---|
| 体重減少 | 6 か月で 2 kg 以上の非意図的減少 | 「意図せず減っているか」を確認し、直近の食事量・間食・補助食品もあわせて聴取 | 栄養の拾い上げ → 摂取量の底上げ |
| 筋力低下(握力) | 男性 < 28 kg / 女性 < 18 kg | 左右それぞれ 1〜2 回測り、最大値を採用(姿勢・肘角度など条件固定) | 下肢+体幹レジスタンスを少量・高頻度で開始 |
| 易疲労感 | ここ 2 週間の「理由のない疲れやすさ」 | 睡眠・薬剤(鎮静、降圧など)・貧血、感染、抑うつ傾向の影響も鑑別 | 量 ↓/頻度 ↑ + 生活リズムの再設計 |
| 歩行速度 | 通常歩行速度 < 1.0 m/s | 4 m 歩行(助走・減速を別に確保)で条件固定。「横断歩道を渡り切れる感覚」で説明すると伝わりやすい | 歩行量の底上げ + 速歩インターバル |
| 身体活動 | 軽い運動やスポーツが「週 1 回未満」 | 解釈差が出やすいので「何を・何分・週何回」を具体行動で確認 | 週単位の回数目標(まず週 2 回)を先に決める |
補助的なスクリーニング指標の使い分け
J-CHS は標準的な入口として使いやすい一方、病棟・在宅では「重症度をざっくり共有したい」「自己申告で素早く拾いたい」など目的が分かれます。場面に応じて補助指標を併用すると、チームでの共有がスムーズです。
| 指標 | 主目的 | 所要 | 判定の目安 | 使いどころ |
|---|---|---|---|---|
| J-CHS | 表現型(体力・活動)に基づく判定 | 3–5 分 | 0 = ロバスト/ 1–2 = プレ/ 3–5 = フレイル | 標準的な一次スクリーニング |
| CFS | 臨床的フレイルの重症度スケール | 1–2 分 | 9 段階(上位ほど脆弱) | 病棟・在宅での迅速な重症度共有 |
| FRAIL | 5 問の自己申告式 | 1–2 分 | 0 = ロバスト/ 1–2 = プレ/ 3–5 = フレイル | 外来・集団での素早いふるい分け |
| 基本チェックリスト | 生活機能の幅広い把握 | 5–10 分 | 運用例:8 点以上でフレイル該当 | 包括的な生活機能評価(地域・在宅) |
多面的介入|運動 × 栄養 × 口腔 × 薬剤 × 社会
フレイルは 1 領域だけでは改善しづらく、運動(レジスタンス・バランス・歩行/二重課題)+ 栄養(十分なたんぱく質・エネルギー)+ 口腔機能 + 薬剤適正化 + 社会参加を同時並行で回す方が効果的です。J-CHS でプレフレイル/フレイルを押さえたうえで、「どの項目がどれだけ障害されているか」を手掛かりに、ゴールとプログラムを組み立てます。
運動(フレイル運動療法)の組み方
運動は“きつすぎないが、楽すぎない”強度で開始し、短いサイクルで微調整するのがコツです。目安として、レジスタンスは週 2〜3 回・主要筋群をRPE 13 程度から段階的に。バランスは反応的/予測的課題や支持基底面の縮小、二重課題化を組み合わせます。歩行は通常歩行と速歩を交互に 2〜3 セットから始め、方向転換・段差・不整地などを段階的に追加します。
栄養(低栄養・サルコペニア併発を前提に)
たんぱく質は1.0–1.2 g/kg/日(必要に応じ 1.2–1.5 g/kg/日)を目安に、低栄養・サルコペニアの併発に注意しながら食事記録と体重変化をフォローします。体重減少がある場合は、「摂取量を増やす」「食事回数を分ける」「間食を足す」などまず “入っていく量” を確保する方向が現場で回りやすいです。
口腔・薬剤・社会参加( “続けられる条件” を整える)
口腔は、咀嚼・嚥下・口腔清掃、口腔乾燥の是正などで「食べる力」を下支えします。薬剤は、鎮静・起立性低血圧・食欲低下などを招く薬剤を多職種で見直し、転倒リスクを下げます。社会参加は、役割・交流・外出機会を意図的に作り、「運動習慣」と「生活の張り」を両輪で整えます。
モニタリング|フォロー時に見るべき指標( 2〜3 個に絞る )
介入開始後は、すべてを毎回測る必要はありません。施設や場面に応じて2〜3 項目を軸にし、同条件で再評価できる形に整えると継続しやすくなります。数値だけでなく、「外出が増えた」「疲れにくい」「転倒不安が減った」などの主観的変化も一緒に記録すると、多職種共有とモチベ維持に役立ちます。
| 指標 | 何が分かる? | おすすめ頻度 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 4 m 歩行(時間) | 歩行速度(移動の基礎アウトカム) | 1〜2 週ごと | 助走・減速・補装具・介助を固定 |
| 握力(最大値) | 筋力低下の代表バイオマーカー | 2〜4 週ごと | 左右 1〜2 回、最大値を採用 |
| 5 回椅子立ち上がり( 5xSTS ) | 下肢筋力・立ち上がり能力 | 1〜2 週ごと | 椅子高さ・上肢使用の条件を固定 |
| SPPB | バランス・歩行・立ち上がりの総合 | 4 週ごと | “全体像” の確認に便利(毎回でなくてよい) |
| 体重 | 栄養・摂取状況の実用アウトカム | 週 1 回 | 同じ時間帯・同じ条件で測る |
現場の詰まりどころ(J-CHS とフレイル運動療法)
実際の現場では、J-CHS を導入しても「評価だけして終わる」「どの程度の強度で運動を始めてよいか分からない」といった詰まりが起きやすいです。特にプレフレイルでは “まだ元気” に見えて、介入開始のタイミングを逃しがちです。
| 詰まりどころ | 起きやすい理由 | 打ち手(実務) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 評価して終わる | 判定(プレ/フレイル)だけ共有して “次の一手” が決まらない | J-CHS の落ちた項目ごとに「最初の介入テンプレ」を用意しておく | 落ちた項目/初期メニュー/次回再評価日 |
| 強度設定が怖い | 安全線が狭く、日によって体調変動が大きい | RPE 13 前後、10 回 × 2 セット程度から開始し、量 ↓/頻度 ↑ で調整 | RPE、実施回数、息切れ・ふらつき |
| プレフレイルが放置される | 「まだ元気だから様子見」になりやすい | J-CHS 1 項目でも週単位のフォロー計画をセット(ミニ再評価 2 項目) | 歩行(時間)/ 5xSTS /体重 など 2 項目 |
| 用語・基準が混在する | 「旧基準(握力 26 kg 等)」と「改訂版」が混ざる | 院内で「採用する基準(改訂 J-CHS)」を明文化し、条件固定の測定手順を統一 | 採用基準(版)/測定条件(助走・補装具等) |
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
J-CHS でプレフレイル( 1–2 項目 )だったら何から始めますか?
まずは歩行+下肢レジスタンス+たんぱく質摂取の 3 点セットを少量・高頻度で始めます。歩行は通常歩行と速歩を交互に 2〜3 セット、下肢は椅子立ち上がりやカーフレイズを10 回 × 2 セット程度から。食事は主菜を「手のひら 1 枚分」を毎食で確保するところからスタートします。
自宅でも測れる簡単なチェックはありますか?
体重の週 1 回記録と、4 m 歩行のストップウォッチ計測は自宅でも実施しやすいです。助走 1〜2 m の後に 4 m のみを計測し、4 秒を超える場合は歩行速度低下の可能性があります。握力計があれば左右 1〜2 回の最大値を記録しましょう。
どのくらいの頻度で再評価すべきですか?
運動と栄養介入を始めたら、1〜2 週間ごとにミニ再評価を行うのがおすすめです。体重、主観的疲労、活動量(歩数や実施回数)、4 m 歩行時間、握力、 5xSTS のうち2 つ以上を軸にすると、変化が掴みやすいです。4 週間前後で小目標を見直すと定着しやすくなります。
変化の目安はどれくらいで出ますか?
個人差はありますが、歩行や立ち上がりなどの機能面は2〜4 週間で体感的な改善が出ることが多いです。体重・筋量はより長めのスパンで評価します。数値だけでなく「外出が増えた」「疲れにくい」といった行動変化も重要な成果指標です。
安全面での注意点(中止目安)はありますか?
胸痛・強い息切れ・めまい・失神感・冷汗・発熱・著しい血圧変動などがあれば即中止し、医療者へ相談してください。運動前後の水分補給、薬剤(降圧薬・睡眠薬など)の影響、起立性低血圧への配慮も重要です。
おわりに|フレイル評価を「日常のルーチン」に落とし込む
フレイルは、一度評価して終わりではなく、「入口をそろえる → 小さく始める → 同条件で再評価する」を回すほど、じわじわと変化が積み重なっていく状態だと思います。J-CHS 基準で共通言語を作り、運動・栄養・口腔・社会参加をセットで回すことが、自立支援や入院・要介護の予防にもつながります。
忙しい現場の中でフレイル評価や介入の時間をひねり出すには、チームの理解や組織のサポートも欠かせません。面談準備チェックと職場評価シートで「環境づくり」まで整理したいときは、マイナビコメディカルの特集ページ(面談準備チェック&職場評価シート)も参考に、今の環境でできることと次の一手をセットで考えてみてください。
参考文献
- Satake S, Arai H. The revised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria). Geriatr Gerontol Int. 2020;20(10):992–993. PubMed / DOI
- Fried LP, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146–M156. PubMed / DOI
- Clegg A, et al. Frailty in elderly people. Lancet. 2013;381(9868):752–762. PubMed / DOI
- Studenski S, et al. Gait speed and survival in older adults. JAMA. 2011;305(1):50–58. PubMed / DOI
- Rockwood K, et al. A global clinical measure of fitness and frailty in elderly people. CMAJ. 2005;173(5):489–495. PubMed / DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


