PDQ-39(Parkinson’s Disease Questionnaire-39)は、パーキンソン病の健康関連 QOL を 8 ドメイン・ 39 項目で評価する患者報告アウトカムです。各ドメインを 0–100% に換算し、平均した PDQ-39SI で全体像を示せます。臨床では、患者の“生活のしづらさ”を可視化し、介入の優先順位づけと効果判定に活用します。
PDQ-39 とは
PDQ-39 は過去 1 か月の困難頻度を 0–4 点で回答し、可動性・ ADL ・情緒的健康・恥辱・社会的支援・認知・コミュニケーション・身体的不快感の 8 ドメインを測定します。得点はドメインごとに%化でき、どの領域の負担が大きいのかを直感的に把握できます。高いほど QOL 低下を意味します。
総合指標の PDQ-39SI(Summary Index)は 8 ドメイン%の平均です。評価は自己記入が基本ですが、必要に応じて支援者の補助も可能です。臨床ではドメイン別の“負担プロファイル”と SI を併用し、目標設定・退院方針・外来フォローで継時変化を追跡します。
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信頼性・妥当性と日本語版
PDQ-39 は開発当初から信頼性・妥当性が検証され、臨床試験や日常診療の主要アウトカムとして世界的に普及しています。症状の重さだけでなく、活動・参加や情緒・疼痛といった患者の生活実感を定量化できる点が強みです。総説・原著によって、構成概念妥当性と反応性も支持されています。
日本語版(PDQ-39J)は邦人を対象とした検証で内的整合性や妥当性が確認されています。評価者教育はシンプルで、外来・入院のいずれでも導入しやすい指標です。院内導入時は、回答の前提となる“過去 1 か月”の説明をテンプレ化し、再現性を高めましょう。
採点と PDQ-39SI の算出
各項目 0–4 点の合計をドメインごとに集計し、ドメイン%=(得点合計 ÷ 最大得点)× 100 を算出します。PDQ-39SI= 8 ドメイン%の平均で、全体の HRQoL を表す単一指標です。報告時は SI に加えて主要ドメイン(例:可動性・情緒)の%を併記すると、介入設計が具体化します。
運用のコツは「同一条件での再評価」です。服薬タイミング・ ON/OFF ・同伴者の有無など、回答に影響しうる要因を記録しておくと、前後比較の妥当性が上がります。紙面では記入ミスが生じやすいため、院内テンプレでドメイン自動計算を整備すると安全です。
PDQ-8(短縮版)の使い分け
PDQ-8 は PDQ-39 から各ドメイン 1 項目ずつ抽出した 8 項目版(#7, #12, #17, #25, #27, #31, #35, #37)です。外来や電話追跡など短時間で全体感を掴みたい場面に有用で、合計を%化して解釈します。入院や介入前後比較など詳細が必要な場面では PDQ-39 を用いましょう。
変化の読み取り:MCID(最小臨床的重要差)
PDQ-39 に公式なカットオフ値はありません。群判別よりも変化量が重視され、PDQ-39SI の MCID は「改善 −4.72」「増悪 +4.22」付近が妥当と報告されています。治療・リハ前後の差がこの閾を超える場合、患者にとって意味のある変化と解釈しやすくなります。
ドメイン別の推移も併せて見ます。例えば SI は改善しても「情緒」や「身体的不快感」が高止まりなら、運動療法に心理・疼痛マネジメントの併用が必要です。逆に SI が不変でも「コミュニケーション」だけが改善しているなら、社会参加支援の効果を評価できます。
UPDRS/MDS-UPDRS との違いと併用
UPDRS/MDS-UPDRS の解説 は症状・機能の客観評価、PDQ は患者報告アウトカム(HRQoL)です。両者のズレは介入仮説のヒントになります。例:UPDRS が改善しても PDQ の情緒が悪化 → 運動+心理面の支援、参加機会の設計を検討、など。
評価データは「UPDRS のセクション別スコア」と「PDQ のドメイン%」を並記すると、チーム内合意形成が円滑です。退院サマリーでは SI と主要ドメインの変化量(MCID を添える)を記述して、経時的な価値を示しましょう。
ライセンスと評価用紙の扱い
PDQ(PDQ-39/PDQ-8/PDQ-Carer)は Oxford University Innovation が管理するライセンス対象です。公式ページ を確認し、医療機関内での使用・学術目的の配布など、利用条件に沿って運用してください。Web 上での原版設問や評価用紙の再配布は控え、院内では適切な手続きのもとで利用しましょう。
参考文献
- Jenkinson C, Fitzpatrick R, Peto V, et al. The PDQ-39: development and validation of a Parkinson’s disease summary index. Age Ageing. 1997;26(5):353–357. PubMed
- Peto V, Jenkinson C, Fitzpatrick R. Short 39-item health status questionnaire for Parkinson’s disease. Qual Life Res. 1995;4(3):241–248. doi:10.1007/BF02260863 DOI
- Kohmoto J, et al. Validation of the Japanese version of the PDQ-39. Rinsho Shinkeigaku. 2003;43(3):71–76. PubMed
- Horváth K, et al. Minimal clinically important difference of PDQ-39SI. Neuroepidemiology. 2017;48:1–7. Link
- Oxford University Innovation. Parkinson’s Disease Questionnaire (PDQ-39/PDQ-8/PDQ-Carer). 2025. Official