【脳卒中に対する理学療法評価項目】脳血管障害リハビリ【新人向け】

ディスプレイ広告
スポンサーリンク
脳卒中
記事内に広告が含まれています。
リハビリくん
リハビリくん

当サイト(rehabilikun blog)にお越し頂きありがとうございます。

サイト管理者のリハビリくんと申します。

この記事の内容
  1. この記事は「脳卒中に対する理学療法評価項目」をキーワードに内容を構成しています
  2. 脳卒中のリハビリにおいて、理学療法評価は回復への道しるべとなる重要なプロセスです
  3. 発症後の状態を正確に把握し、適切な治療方針を導くためには、評価項目の理解が欠かせません
  4. ですが、「何を、なぜ評価するのか」が曖昧なまま進めてしまうケースも少なくありません
  5. 本記事では、脳卒中リハビリに必要な主要評価項目を目的別にわかりやすく解説します
  6. 根拠を持った評価ができるようになりたい方は、ぜひ最後までご覧ください
リハビリくん
リハビリくん

理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪

リハビリくんの実績
  1. rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設
  2. 2025 年 7 月時点:184 記事公開(月間 3 万 PV)
  3. 実務経験(医療機関、介護福祉施設、訪問リハビリ等)
  4. 講師活動(脳卒中、褥瘡等をテーマに複数回講演)
  5. 脳卒中 認定理学療法士
  6. 褥瘡 創傷ケア 認定理学療法士
  7. 3 学会合同呼吸療法認定士
  8. 福祉住環境コーディネーター 2 級
ディスプレイ広告
スポンサーリンク

脳卒中によって生じる機能障害と活動制限

脳卒中は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳内で出血が起こる「脳出血」、くも膜下腔で出血が生じる「くも膜下出血」の 3 つに大別され、それぞれ病態や予後、後遺症の特徴が異なります。

しかし共通して、発症によって脳の一部に急性の損傷が生じ、心身に多岐にわたる機能障害を引き起こす疾病が脳卒中となります。

まず代表的な機能障害として、運動麻痺が挙げられます。特に片麻痺は日常生活に直結する重大な問題となり、移動、起き上がり、立ち上がり、歩行など基本的な動作能力が著しく低下します。

また、感覚障害も併発することが多く、痛みや温度に対する感受性の低下、位置覚の障害などが見られ、動作の協調性をさらに困難にします。

高次脳機能障害も重大な症状の 1 つになります。高次脳機能障害では、失語(理解・表出の障害)、失行(意図的な動作の障害)、失認(対象の認知障害)、注意障害、記憶障害などがみられ、これらはコミュニケーションや学習、意思表示に大きく影響します。

右半球損傷では半側空間無視という高次脳機能障害を発症することがあり、自分の身体や空間の一部を認識できなくなることで日常生活にさまざまな支障をもらたします。

また、嚥下障害や構音障害により、食事や会話が困難となる例も少なくありません。誤嚥による肺炎リスクの上昇や社会的孤立につながる可能性があり、QOL(生活の質)に大きく影響します。

これらの機能障害は、日常生活活動(ADL)や社会参加(IADL)にも大きく影響を及ぼします。例えば、食事、更衣、排泄、入浴といった基本的動作が自立して行えなくなり、他者の介助が必要となる場面が増えます。また、外出、買い物、交通機関の利用、就労といった社会的活動への参加が困難になることで、心理的ストレスやうつ状態を引き起こすこともあります。

さらに、排泄機能の障害(尿失禁・便失禁)や性機能の低下といった身体的な二次的問題も発生し、患者本人だけでなく家族の精神的・身体的負担も大きくなります。

以上のように、脳卒中は単に一部の身体機能の喪失にとどまらず、身体的・認知的・社会的側面を含めた包括的な障害をもたらします。そのため、医療従事者は機能障害だけでなく、活動制限や参加制約を含めた全体像を把握し、早期から多職種で介入を行うことが重要となります。

脳卒中の評価項目

脳卒中患者のリハビリテーションでは、評価が介入の質を決定する起点となります。

適切な評価によって、障害の部位・程度・予後を把握し、個別性の高い治療計画の立案が可能になります。

脳卒中患者だからといって全患者一律の評価にするのではなく、患者の病態・時期・目標に応じた個別の評価項目の立案が必要になります。

神経学的障害の評価

脳卒中に対する神経学的評価は、脳の損傷部位や障害の重症度を把握するための総合的な指標であり、特に発症直後から急性期・回復期にかけての評価が重要となります。

障害の全体像を明らかにすることで、治療方針の決定、リスク管理、リハビリテーション計画の立案に直結します。

代表的な評価法には、NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)や SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)などがあり、運動麻痺、感覚障害、視野障害、意識状態など多様な領域を定量的に評価することができます。

これらのツールは急性期から回復期まで幅広く使用され、予後予測や介入効果の判定にも有用とされています。

NIHSS(NIH Stroke scale)

NIHSS は脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など脳卒中の神経学的重症度を評価するために開発された尺度であり、「意識」「最良の注視」「視野」「顔面麻痺」「上肢の運動」「下肢の運動」「運動失調」「感覚」「最良の言語」「構音障害」「消去現象と注意障害」の 11 項目によって構成されています。

NIHSS の得点範囲は 0 ~ 42 点となっており、0 点が正常であり、42 点に近いほど神経学的重症度が高いことを意味しています。

SIAS(脳卒中機能障害評価法)

SIAS とは、Stroke Impairment Assessment Set の頭文字をとってできた略称になります。日本語では脳卒中機能障害評価法と呼ばれています。

SIAS は信頼性および妥当性の検証がなされた脳卒中後の機能障害に関する総合評価指標であり、脳卒中治療ガイドラインにおいても SIAS の使用が推奨されています。

SIAS は「麻痺側運動機能」「筋緊張」「感覚機能」「関節可動域」「疼痛」「体幹機能」「視空間認知」「言語機能」「非麻痺側機能」の 9 つの機能障害に分類された合計 22 項目から構成されています。

「麻痺側運動機能」についての 5 項目のみ 0 ~ 5 点の 6 件法、他の 17 項目については 0 ~ 3 点の 4 件法により判定を行い、いずれの項目も点数が低いほど機能障害が重度であり、点数が高いほど機能障害が軽度であることを示します。

合計点の得点範囲は 0 ~ 76 点になり、76 点に近いほど、脳卒中による機能障害が重度であると判定することができます。

脳卒中重症度スケール(JSS)

脳卒中重症度スケール(Japan Stroke Scale)とは、脳卒中を発症した患者の急性期における重症度を判定するためのスケールになります。1997 年に日本脳卒中学会によって発表されて以降、急性期の脳卒中診療の場において広く活用されています。

全 12 項目から構成されており、得点範囲(数値)は最低 – 0.38、最大 26.95 となります。カットオフ値は定められておりませんが、数値が大きい(26.95 に近いほど)脳卒中の重症度が高いことを示しています。

運動機能の評価

脳卒中患者における運動機能の評価は、損傷部位により異なる麻痺や機能障害の把握、適切なリハビリ計画立案、回復過程のモニタリングに不可欠となります。運動機能の評価の中でも特に重要性が高いものを 4 つ紹介します。

  1. ブルンストローム・ステージ
  2. 関節可動域測定
  3. 徒手筋力テスト(MMT)
  4. 基本動作能力

ブルンストローム・ステージ

Brunnstrom Recovery Stage(ブルンストローム・ステージ)は脳血管障害による片麻痺の程度を、上肢・手指・下肢のそれぞれについて回復過程の視点から、ステージ I(もっとも重度の弛緩性麻痺)~ VI(分離運動がほほ正常に可能)の 6 段階で評価するものとして提唱された指標になります。

最も使用されている片麻痺評価の 1 つになります。個別の筋に対する関節可動域検査や MMT と異なり、BRS では上肢・手指・下肢をそれぞれ全体的な動きとして解釈し、共同運動としての随意運動の出現および共同運動からの分離を評価します。

関節可動域(ROM)測定

脳卒中患者に対する関節可動域(ROM)測定は、麻痺や不動により生じる関節拘縮や筋短縮を早期に把握し、予防・改善に向けた適切なリハビリ介入を行う上で極めて重要になります。

脳卒中によって運動麻痺が生じると、自発的な運動量が減少し、特に肩関節や足関節では拘縮や異常肢位が進行しやすくなります。

関節可動域の制限は日常生活動作(ADL)の低下を招き、QOL にも影響を及ぼすため、定期的な ROM 評価を通じて、関節の柔軟性や動きの質を維持・向上させることが不可欠です。

徒手筋力テスト(MMT)

徒手筋力検査(MMT)は、脳卒中による運動麻痺の程度を把握するために不可欠な評価方法です。

脳卒中では中枢神経の損傷によって、筋の随意的な収縮が困難となり筋力低下が生じます。筋力低下に対し MMT により個々の筋または筋群の筋力を 6 段階で定量的に評価することで、麻痺の重症度や分布、機能回復の推移を把握することができます。

特に、運動機能の回復段階を把握し、訓練プログラムの立案や日常生活動作(ADL)能力の予測に役立ちます。

また、左右差の明確化により損傷側と非損傷側の機能的バランスを評価し、介助量や装具使用の判断にも貢献します。以上のように、MMT はリハビリの初期評価から経過観察に至るまで重要な役割を果たします。

基本動作能力

基本動作能力の評価は、実生活に直結する基本動作の自立度を評価し、ADL の改善や在宅復帰の見通しに直結する重要な指標となります。

臨床で有効となる基本動作能力の指標として Basic Movement Scale(BMS)とABMS-2(Ability for Basic Movement Scale)の 2 つを紹介します。

Basic Movement Scale(BMS)

Basic Movement Scale は、寝返りや乗り移りなど 9 項目の基本動作から構成されています。

上肢活用有無による動作遂行可否および 5 点から 1 点の 5 段階評定を判定尺度に用いるとともに、イラストによる動作の視覚化によって使用者および第三者の理解が得られやすいことが特徴の一つに挙げられます。

ABMS-2(Ability for Basic Movement Scale)

ABMS-2 は基本動作能力を簡易的に評価するスケールになります。「寝返り」「起き上がり」「座位保持」「立ち上がり」「立位保持」の 5 つの基本動作をそれぞれ、1 ~ 6 点で評価します。

基本動作(起居動作)のみで構成された評価尺度であり、ベッドやプラットフォーム等の横になる環境さえあれば、評価において特別な道具は不要となります。短時間で評価することができる点も特徴になります。

筋緊張・痙縮の評価

脳卒中の後遺症として筋緊張が亢進し、痙縮が出現することがあります。これにより関節可動域が制限され、日常動作やリハビリ動作が困難になります。

Modified Ashworth Scale(MAS)は痙縮の程度を定量的に評価でき、薬物療法(ボツリヌス治療等)やストレッチ、装具療法の導入判断に活用されます。早期評価が拘縮予防にも寄与します。

体幹機能の評価

体幹の安定性は座位保持や起き上がり、立ち上がりといった基本動作に直結します。体幹機能の程度は歩行自立の予測因子ともなるため、早期からの評価と介入が脳卒中患者のリハビリテーションにおいて重要となります。

臨床で有効となる脳卒中患者の体幹機能の指標として、臨床的体幹機能検査(FACT)と Trunk Control Test(TCT)の 2 つを紹介します。

臨床的体幹機能検査(FACT)

臨床的体幹機能検査(Functional Assessment of the Coordination of Trunk movement:FACT)は、脳卒中患者の体幹機能を評価するための指標になります。

全 10 項目の課題により構成されており、「可能」か「不能」で判定する項目が 8 項目、「両側可能」か「片側可能」か「不能」で判定する項目が 2 項目となっています。採点は各項目の得点を加算していき、得点範囲は 0 ~ 20 点、得点が高いほど体幹機能が高いことを示します。

Trunk Control Test(TCT)

Trunk Control Test(TCT)は脳卒中患者の体幹制御能力を評価するための簡易的な臨床テストになり、別名で体幹コントロールテストとも呼ばれています。

寝返り、起き上がり、座位保持などの臨床で日常的に実施するような評価項目で構成されていることが特徴になります。得点範囲は 0 ~ 100 点となり、得点が高いほど体幹機能が優れているという判定になります。

バランス・移動能力の評価

脳卒中の後遺症には運動麻痺、姿勢制御障害や感覚障害等の症状がありますが、これらの影響によりバランス能力が低下し、転倒の危険性が生じるため、バランスや移動能力の評価が重要になります。

バランスや移動能力の評価方法には様々なものがありますが、臨床で使いやすい有用な指標を 5 つ紹介します。

  1. ファンクショナルバランススケール
  2. Timed Up & Go test(TUG)
  3. ファンクショナルリーチテスト
  4. Four Square Step Test(FSST)

ファンクショナルバランススケール

Functional Balance Scale は日常生活に密接に関連した機能的な動作 14 項目から構成されており、各項目を 0 ~ 4 点の 5 段階で評価し合計点を算出します。

合計点の得点範囲は最大 56 点、最低 0 点となり、点数が高いほど機能が高く、点数が 0 点に近いほど機能が低いことを示しています。

Timed Up & Go test(TUG)

TUG は椅子に座った状態から立ち上がって歩き出し、3 m 先の目印で折り返して再度椅子に座るまでの時間を計測するテストになります。

移動(歩行)に加えて、椅子からの起立・着座や方向転換を含むことから、歩行能力だけではなくバランスや筋力、判断能力などを必要とします。そのような特性から、ADL や易転倒性との関連が強いことが報告されています。

ファンクショナルリーチテスト

ファンクショナルリーチテスト(Functional Reach Test)とは、1990 年に Duncan らによって提案された動的バランス機能に対する評価方法であり、略称で FRT とも呼ばれています。

自然立位において上肢を可能な限り前方にリーチさせ、その距離を計測するテストになります。

Four Square Step Test(FSST)

Four Square Step Test(FSST)は 2002 年に Dite らが開発した、バランス能力(敏捷性)の評価方法となります。

FSST は低い障害物を越えて、前後・左右に素早くステップをするスピードを測定する評価法になります。信頼性や妥当性も認められており、転倒の予測にも有用であると報告されています。

ADL・IADLの評価

脳卒中患者に対する ADL(基本的日常生活動作)および IADL(手段的日常生活動作)の評価は、リハビリテーションの効果を可視化し、生活の質を把握するうえで極めて重要になります。

これらの評価は、食事・更衣・移動などの基本的動作から、買い物・金銭管理・交通機関の利用など、より複雑な日常活動まで対象とします。

評価により、患者の院内での生活レベルを把握でき、支援の必要度や退院後の生活に向けた課題も明確になります。

在宅復帰や地域生活への移行を安全かつ円滑に進めるための支援計画立案において、ADL・IADL 評価は欠かせない指標となります。

ADL・IADL の代表的な評価指標について、いくつか紹介します。

Barthel Index(バーセルインデックス)

Barthel Index(バーセルインデックス)とは、1965 年に米国の医師(Mahoney)と理学療法士(Barthel)によって開発された ADL 評価尺度です。

日常生活動作(ADL)の中でも特に重要性が高い 10 項目により構成され「できる ADL」を評価します。得点範囲は 0 ~ 100 点、得点が高いほど ADL 能力が高いと判定します。

FIM(機能的自立度評価法)

FIMとは「Functional Independence Measure」の略語で、1983 年に Granger らによって開発された ADL 評価法になります。

FIM の目的は、介護者の負担度を評価することになります。負担度をみることが目的のため、「できる ADL 」ではなく「している ADL 」を評価することが FIM の最大の特徴になります。

Lawton(ロートン)の尺度

Lawton(ロートン)の尺度とは 1969 年に Lawton、Brody らが開発した IADL 評価尺度になります。

性別によって評価項目が異なるというところが Lawton の尺度の特徴となっており、男性は 5 項目、女性は 8 項目から構成されています。

老健式活動能力指標

老研式活動能力指標は、地域に住む高齢者の生活能力を測定することを目的にしています。

全 13 項目の評価項目から構成され、各項目について、「はい」は 1 点、「いいえ」は 0 点で得点化することで合計点を算出します。

「はい」の項目が多い(得点が高い)ほど、活動能力(IADL 能力)が高いことを示します。

高次脳機能の評価

脳卒中を発症すると、運動麻痺や感覚障害に加え、高次脳機能障害が後遺症として出現することがあります。

高次脳機能障害には、半側空間無視、プッシャー症状、認知機能障害、失語症など多岐にわたる症状が含まれ、これらは日常生活動作(ADL)の自立やリハビリテーションの進行に大きな影響を及ぼします。

そのため、身体機能の回復を促すだけでなく、個々の高次脳機能障害の特性を的確に捉える評価が不可欠です。

高次脳機能障害の評価には、症状ごとに適切な尺度を用いることが求められます。

たとえば、半側空間無視の評価には「Catherine Bergego Scale(CBS)」や「時計描画テスト(Clock Drawing Test)」が有効であり、プッシャー症状には「Scale for Contraversive Pushing(SCP)」が使用されます。

これらの評価を通じて、患者の行動特性や認知の偏りを可視化し、より効果的なリハビリテーションプログラムの立案が可能となります。

Catherine Bergego Scale(CBS)

Catherine Bergego Scale(CBS)は半側空間無視の評価方法の 1 つであり、脳卒中患者の ADL を観察することで半側空間無視を定量的に評価することができます。

合計 10 項目の ADL 場面の半側空間無視について評価しますが、各項目を客観的評価(理学療法士や看護師などの医療従事者が採点)と主観的評価(患者自分自身で採点)のそれぞれで評価することが CBS の特徴になります。

時計描画テスト(Clock Drawing Test)

時計描画テスト(Clock Drawing Test)とは、時計の絵および指定された時刻に針を配置する描画検査になります。

紙と鉛筆があれば机上で集団で実施することも可能かつ、様々な機能や能力の評価に繋がることが報告されており、臨床におけるスクリーニングツールとして有用といえます。

Scale for Contraversive Pushing(SCP)

Scale for Contraversive pushing(SCP)は Pusher 症候群の有無と重症度を評価することができる指標になります。

評価項目は、「姿勢の対称性」「非麻痺側上下肢の外転および伸展」「抵抗」の 3 項目から構成されています。

Scale for Contraversive pushing(SCP)の最高得点は 6 点となり、得点が高いほど Pusher 症候群が重度であるという判定になります。

感覚機能の評価

脳卒中後遺症として生じる感覚障害は、触覚・圧覚・痛覚・温度覚・位置覚・運動覚など多岐にわたります。

これらの感覚は運動制御や身体イメージの形成に関与しており、障害されると ADL 動作の正確性や安全性に影響を及ぼします。

例えば、温度覚の低下は熱傷のリスクを高め、位置覚の障害は運動の協調性を損ないます。リハビリテーションにおいては、感覚障害の有無や程度を的確に把握することで、運動学習の方法や介入内容を調整でき、より効果的な訓練計画の立案が可能となります。

そのため、感覚検査は機能回復を図るうえで不可欠な評価項目です。

呼吸・循環機能の評価

脳卒中発症後は、脳損傷そのものによる神経学的後遺症に加え、長期臥床による廃用症候群の影響で、呼吸・循環機能の障害を来す可能性があります。

特に運動耐容能の低下が顕著であり、安全な離床や運動療法を行うためには、心拍数、血圧、Borgスケール、SpO₂ などの生理的指標を用いた綿密なモニタリングが必要です。

呼吸筋麻痺や起立性低血圧、不整脈などを伴うこともあり、高齢者や重症例ではより慎重な対応が求められます。これらの機能評価は、リスク管理と離床・歩行練習における安全性確保のために不可欠です。

心理・社会的因子の評価

脳卒中後には、うつ症状や不安、意欲低下などの心理的変化が高頻度で出現し、リハビリテーションへの参加意欲や ADL 能力の回復にも大きく影響します。

これらの心理的側面を適切に把握するために、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)や Geriatric Depression Scale(GDS)などの標準化された評価尺度が用いられ、症状の早期発見や経過観察が可能となります。

さらに、家庭環境や経済状況、社会的支援体制といった社会的背景の把握も不可欠です。こうした情報は、退院後の生活設計、在宅支援体制の構築、介護サービス導入の判断に直結するため、多職種によるチーム全体で共有・活用することが望まれます。

HADS

HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)は、病院環境での不安と抑うつを評価する自己記入式スケールです。

全 14 項目で構成され、不安(HADS-A)と抑うつ(HADS-D)を各 7 項目で評価します。

各設問の得点範囲は 0 ~ 3 点となるため、合計点の得点範囲は不安と抑うつのそれぞれの領域で 0 ~ 21 点となり、合計点が高いほど不安と抑うつが強いことを示します。

GDS15

GDSは、1982年にBrinkらにより開発された高齢者用うつ尺度になります。

GDS の原版は 30 項目から構成されていますが、1986 年に Sheikh らによって 15 項目の短縮版(GDS15)が開発され、高齢者のうつの評価指標として推奨され、国際的にも広く用いられております。

簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)

簡易抑うつ症状尺度は、うつ病の重症度を評価する自己記入式の質問票で、アメリカ精神医学会の DSM-IV に基づいた 9 つの主要症状(睡眠、食欲、興味喪失、気分など)を評価対象としています。

日本語版(QIDS-J)は文化的背景に配慮し翻訳・調整されたもので、臨床や研究において、うつ症状の程度を迅速かつ客観的に把握するために有用です。評価結果はスコア化され、症状の経時的変化の追跡にも適しています。

実践のためのアドバイス

これらの評価項目を熟知し、適切に使い分けられることは、質の高いリハビリテーションを実践するうえでの基礎力となります。ただし、「すべてを網羅的に実施する」ことが目的ではありません。評価は目的に応じて選択的に行うことが重要です。

また、評価値はあくまでも一側面であり、「動作観察」や「患者の主観的訴え」と組み合わせて、機能や能力を多面的に捉えることが求められます。数値のみに依存せず、臨床的推論を働かせながら全体像を把握してください。

さらに、評価結果は記録・共有することにより、チームアプローチの中で活用され、継続的なケアに活かされます。評価は単なる数値測定ではなく、「生活再建に向けたゴール設定のための道具」であるという視点を常に持ち続けることが、臨床家としての成長に直結します。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

脳卒中患者の理学療法において、適切な評価は治療の質を決定する重要な出発点となります。本記事では、脳卒中によって生じる運動麻痺、感覚障害、高次脳機能障害などの多様な機能障害とその活動制限について詳しく解説しています。

評価項目は神経学的評価(NIHSS、SIAS)から始まり、運動機能(ブルンストローム・ステージ、MMT)、バランス・移動能力(FBS、TUG)、ADL・IADL評価(FIM、Barthel Index)、高次脳機能(CBS、時計描画テスト)まで幅広くカバーしています。

重要なのは、すべての評価を網羅的に実施することではなく、患者の病態・時期・目標に応じて選択的に活用することです。評価結果は数値だけでなく、動作観察や患者の主観的訴えと組み合わせて多面的に捉え、生活再建に向けたゴール設定の道具として活用することが、質の高いリハビリテーション実践につながります。

こちらの記事が日常の診療に少しでもお役に立つと幸いです。

参考文献

  1. 望月久.脳卒中における機能障害と評価.
    理学療法科学.22 (1),p33-38,2007.
タイトルとURLをコピーしました